National Geographic News タリバンの兵士たちに囲まれたイヌが目をきょろきょろさせ、ためらいがちに尻尾を揺らしている。欧米のアフガニスタン駐留軍所属とみられる軍用犬が捕らえられた。先週、銃を持ったタリバンの兵士に囲まれるイヌの映像が公開された。
このイヌはイギリス軍の所属らしい。名前や性別は不明だが、犬種はベルジャンマリノアとみられる。勇敢で 活動性に富み、暑さにも対応できることで知られ、イラクやアフガニスタンといった場所に特に適している。ベ ルジャンマリノアは米軍の特殊作戦部隊がしばしば活用しており、主として爆発物や麻薬を探知するよう訓練さ れている。
軍隊は一般に、敵に捕らえられた可能性のあるイヌについて報告することはない。しかし、第2次世界大戦中 にメディアの注目を浴びた例もある。イギリス軍の船で飼われていたイヌのジュディーは日本軍に捕えられ、戦 争捕虜として記録された。この純粋種のポインターは殺処分が決まっていたが、生き延びてイギリスに帰国。 「優れた勇気と忍耐をたたえて」勲章が授与され、BBCはその鳴き声を放送した。
イヌはイラクとアフガニスタンで重要な役割を果たしてきた。米軍が活用する軍用犬は2500匹にも上る。他に 比べて戦闘に向く犬種がいる一方、暑さにやられたり、訓練で銃撃戦や爆発物に慣れさせていても実戦には対処 できない犬種もいる。忠誠心が強過ぎる、怠惰過ぎる、はしゃぎ過ぎる犬種もいる。
戦争にイヌを用いることをアメリカで初めて奨励したのはベンジャミン・フランクリン(Benjamin Franklin)だと伝わっている。このときの相手はアメリカ先住民だった。「(イヌは)敵を混乱させるだろう」 とフランクリンは記している。「それに、とても役に立つだろう。スペイン軍が行軍の警護に使った方法だ」 (スペインの征服者たちは、先住民との戦いでブルマスティフを使ったと言われていた)。
1835年の第2次セミノール戦争で、アメリカ軍はキューバ育ちのブラッドハウンド33頭を使い、フロリダの沼 地にいる先住民を探させた。南北戦争ではイヌが伝令として、1898年のアメリカ・スペイン戦争では斥候として 活躍した。
第1次世界大戦では、数千匹のイヌが伝令を務めた。第2次大戦ではアメリカ海兵隊が太平洋の島々に上陸した 際にイヌを用い、隠された日本軍の陣地を臭いで探させた。ベトナム戦争では密林の哨戒を先導するのに5000頭 ものイヌが使われ、約1万人の命を守ったと推定されている。
◆英雄となったイヌたち
現在、軍隊で働くイヌ(MWD)はその働きにより、国家意識発揚のための文脈で英雄として語られるようにな った。特に有名なイヌは名前が知られている。オサマ・ビンラディンを殺害した米海軍特殊部隊チームとの連携 で賞賛された、ベルジャンマリノアのカイロ。また、訓練士のマイク・ダウリング(Mike Dowling)が1冊の本 を著したジャーマンシェパードのレックス。ダウリングはイラクの悲惨な状況で上げた功績を著書に記し、「起 き上がって任務を続ける強さを私に与えてくれたのはレックスだった」と語っている。
言うまでもなく、このような絆は人と犬のチームに対して我々が覚える感動の核心部分として神話化されてい る。動物の優れた感覚に対する人間の信頼(イヌの嗅覚受容器は2億2千万個あるのに対し、人間は500万個しか ない)、狩りをするときの無邪気な喜びとは打って変わったイヌの真剣な努力、訓練士とイヌが一方は危険を知 り、もう一方は知らないまま、人命救助のため危険な任務に身を投じるときの無私で誠実な姿などがそうだ。
しかし、イヌと兵士が「名犬ラッシー」のラッシーと少年ティミーのように寄り添って暮らしているイメージ は必ずしも正確ではない。イヌの訓練士はむしろ、軍用犬は装備の1つに過ぎないという軍の命令をきっちりと 守ることに力を尽くしている。
「もしあなたが訓練士なら」と話すのは、かつてトップクラスの軍用犬訓練士だった一等軍曹クリストファー・ ナイト(Kristopher Knight)氏だ。「イヌに対して全能の神のように振る舞わなければならない。いつ食べる か、いつ息をするか、いつ攻撃に出るかを命じる。そうしないと実地で全く言うことを聞かなくなるからだ」。
PHOTOGRAPH BY UNDERWOOD AND UNDERWOOD, NATIONAL GEOGRAPHIC
posted by しっぽ@にゅうす at 00:00
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