ウォールストリートジャーナルミネソタ州ロチェスター在住のダイアナ・ブリスクさん(62)は飼い猫のスナグルズが攻撃してきた日のことを決して忘れないだろう。
ブリスクさんはその晩、いつものように飼っている三毛猫をなでていたが、突然右手を噛(か)みつかれた。血が出なかったため、彼女は手を洗っただけだった。しかし、翌朝、ブリスクさんの右手は腫れ、痛み出した。病院に行くと、すぐさま救急治療室に搬送された。
ブリスクさんは10日間入院した。その間、かまれた場所から外科医が繰り返しうみを出して、消毒した。ブリスクさんは、猫に噛まれて「手の手術が必要になるとは夢にも思わなかった」と話す。
米メイヨー・クリニックの研究者が行った研究によると、過去3年の間に手を猫に噛まれて受診した患者193人のうち、30%は平均3.2日入院しなければならなかった。入院した患者の大半は、傷を外科的に洗浄し、感染を除去する必要があった。この研究論文は今月、Journal of Hand Surgeryに掲載された。
論文を執筆したメイヨーの外科医、ブライアン・カールセン氏は、「猫に噛まれると、非常に深刻な事態に陥る場合がある。感染症になると治療が非常に困難だ」と述べた。カールセン氏によると、それはとりわけ手の傷に当てはまる。腱(けん)と関節の構造が理由だという。
米国ペット商品協会(APPA)によると、2012年に猫を飼っていた米国の世帯数は推定4530万世帯で、06年の3840万世帯を大幅に上回った。一部の研究報告によると、ペットは飼い主のストレスを減らし、気分を高揚させる効果がある。しかし、ペットを飼うと健康上の心配があるという調査結果も相次いでいる。それは、心理学から寄生虫学にいたるまでさまざまな分野にわたるものだ。
猫の鋭い歯は人間の皮膚内に深く食い込む。その際にできた針のような小穴は、一見して深刻ではなさそうだが、猫の口内に生息するバクテリアが容易にそこに感染する。メイヨー論文によると、動物に噛まれたとして救急外来で受診する患者のうち、猫に噛まれた患者は全体の10−15%。猫によるひっかき傷もまた、感染の原因になるという。
救急外来受診では犬に噛まれて駆け込む患者の比率のほうがはるかに大きいが、それは猫の場合とは異なるタイプの害になる傾向が強い。犬に噛まれた場合、受ける傷は大きいが、猫に噛まれた場合の針のような効果、つまりバクテリアが皮膚の奥深くに入り込むケースは少ないという。
理由は明確ではないものの、猫に噛まれることと、人のうつ状態との関係を指摘する研究もある。ミシガン大学医学大学院のデービッド・ハナウアー准教授は、同大学の医療システム全体が診察した約130万人の患者の電子記録を分析した。その結果、猫に噛まれて治療を受けた患者のうち、ある時点でうつ状態と診断された比率が41%に達したという。同教授は「ここに関連性があるのは確実だ」と言う。しかし同時に「われわれにはその理由が分からない」と述べ、この関連性は必ずしも因果関係を示唆しないかもしれないと語った。研究結果は昨年8月、科学雑誌「PLOS ONE」で発表された。
猫はまた、外的な環境から寄生生物を拾ってきて、それを人に感染させることがある。米国では人口全体の実に10−20%が寄生性原生生物のトキソプラズマ(Toxoplasma gondii)に感染している。それは、猫がネズミや鳥など感染源の動物を食べて感染し、彼らの顔に巣食う寄生生物だ。このトキソプラズマは通常、健康な人々にはほとんど影響しない。しかし妊娠女性の胎児には危険で、盲目や精神障害の原因となる可能性がある。また免疫システムが弱い人々は感染によって中枢神経の障害を引き起こす場合がある。
また近年の幾つかの研究では、猫からトキソプラズマに感染すると、深刻な心理的問題のリスクが増大し得ることが示唆されている。例えば統合失調症や自殺行動などだ。ジョンズ・ホプキンズ大学のロバート・ヨルケン教授は、両者間の関係について「中程度の証拠が存在する」と述べた。同教授は2012年、トキソプラズマと統合失調症に関する研究を調査した分析論文を共同執筆した。同教授によれば、考えられる理由の一つは、トキソプラズマが人間の脳内でドーパミン(中枢神経系に存在する神経伝達物質)の存在を高める可能性があるというものだ。また幼児期に感染すると、潜在的な症状はもっと顕著になる公算が大きいという。
関連記事
コウモリから人に直接感染するSARS似のウイルスを発見=英科学誌
犬が子供をぜんそくから保護するからくり
ネコたちが語りたがらない10の事実
.
動物専門家たちは、猫を飼っても適切に警戒していれば健康上のリスクを最小限に抑えることができると述べている。疾患管理・予防センター(CDC)の疫学専門家ジェフリー・ジョーンズ氏は「猫を家で飼っても、(トキソプラズマの感染)リスクは極めて小さい」と述べた。そして、猫用トイレの扱いに十分注意し、手を洗い、食べ物の調理を徹底的に管理すれば、感染を防ぐことができるという。
感染症の専門家でロックビルセンター(ニューヨーク州)のマーシー・メディカルセンター最高総務責任者(CAO)のアーロン・グラット氏も「衛生状態を十分によくしておけば、大丈夫だ」と述べた。
これに対し、猫を飼うことが健康面でプラス効果をもたらす場合もある。アレルギーや喘息(ぜんそく)に対する「ペット予防効果」で、一部の研究論文でその成果が指摘されている。コロンビア大学のメイルマン公共健康大学院のマシュー・パーザノウスキ准教授は、猫は他のアレルギーと同様に、喘息の引き金になるが、猫と一緒に成長した子供は、「猫アレルギーを発症する公算が小さいようだ」と述べている。
posted by しっぽ@にゅうす at 00:00
|
猫
|

|