かわいい洋服を着てアクセサリーをつけ、しつけのための“幼稚園”に通い、クリスマスや正月には特別料理を楽しむ…家族の一員、「愛犬」をめぐるサービスが進化している。3月には全国でも珍しい、犬専用の「エステ&スパ」サロンが兵庫県西宮市にオープン。愛犬のための手作りごはんのレシピを披露する投稿レシピサイトも開設されるなど、ペット熱は高まる一方だ。(木村郁子)
敷地には幼稚園もブティックも
今年3月にリニューアルオープンした、阪急西宮ガーデンズにある阪急ハロードッグ。犬のためのファッションブティックや国産・自然食のペットフードをはじめ、シニア犬の介護用品などが併設され、ドッグランや、しつけのための“幼稚園”も。一角にビューティーサロンがあり、そこへ新たにエステ&スパが新設された。
4月上旬、常連客のトイプードルのココアくん(オス、6歳)が飼い主の兵庫県尼崎市の自営業女性(54)に連れられてやってきた。2週間に1度はシャンプーカットのために来店し、エステを受けるのは2度目。この日は「フレッシュキープコース」を選択。美容成分が入ったシャンプー&リンスと泡パックで、季節の変わり目に乾燥しがちな皮膚に張りを与え、被毛の傷みを改善、ふわふわになるというコースだ。
トリミングで毛先を整えた後、オゾンシャワーで表面の汚れを落とし、いよいよエステに。シルク成分をたっぷり含んだ泡パックを全身に塗り、イオンスチーマーをかけながら、成分をじっくりと浸透させていく。泡をなでつけるように塗っていくと、ココアは鳴き声ひとつ上げず、気持ちよさそうに眼を細め、リラックスしている様子がうかがえる。
予約待ち2カ月
シャンプーの後はリンスで被毛のキューティクルやタンパク質を保護。ドライヤーで乾かし、耳掃除もして、1時間半のメニューを終えた。
「アレルギーもあって皮膚が弱くおなかに発疹ができやすいんです。エステを受けると毛並みが立ってりりしくなり、体のかゆみも治まっている様子」と飼い主の女性は満足そうな笑顔。ちなみにこの日のお値段は、1万円(税別)
ココアを担当したスタイリストの曽余田栄子さんは、「犬も年を取るごとに腸内環境の変化から加齢臭がきつくなります。食事はもちろんのこと、毛穴の汚れを取ることも大切なんです」ときっぱり。エステ・スパのコースは計5コースあり、「毛並みが明らかに変わる」と愛犬家の間で評判が高く、2カ月先まで予約が埋まっている状況だ。
外見だけでなく、中からも美しくなってほしい、と願う飼い主に人気が、手作り食。専門のおそうざい屋がオープンしたり、レシピ本などの発刊も相次いでいるが、手軽に自宅で作れるようにと、インターネットに専門サイトも誕生した。
「ちらし寿司」「オムライス」投稿レシピも
犬の手作りごはんレシピ投稿サイト「わんわんシェフ見習い中」。ペット食育協会(東京都八王子市)認定の「ペット食育上級指導士」など、専門家による本格的なレシピのほか、全国の愛犬家も投稿。マグロやニンジン、小松菜などで彩りよく飾った「ちらし寿司」や、ケチャップのかわりにトマト缶を使った「オムライス」など、栄養バランスも盛りつけも工夫を凝らしたレシピが並ぶ。
平成22年9月に立ち上げ、現在、レシピの数は1000以上。愛犬が肥満や、アレルギー、皮膚疾患を抱えるなどの理由から、厳選した食事を与えたいと気遣う飼い主が主なユーザーとなり、1カ月に3万人の利用があるという。
同サイトを運営するコラビー(東京都千代田区)同代表取締役の瀧谷知之さん(37)は「ペットフードが主流になったのはここ50年。それまでは家族と同じご飯を犬や猫にも食べさせていたんです。ただ、途絶えていた間に、ペットごはんのレシピが分からないという人が圧倒的。二食のごはんと散歩しか楽しみのない犬のために、少しでもおいしい食事を提案したい」と話す。
今年1月、ペット保険などを扱う「ペット&ファミリー」(東京都文京区)が20〜70代の男女1215人を対象に行った「ペットの飼育費に関する家計簿調査」によると、昨年の1カ月あたりの平均飼育費は10002円と一昨年の9065円を大きく上回っている。中でも、美容費は1390円から1511円と約1割アップ。消費増税後にペット関連費用を節約するか尋ねたところ、「節約しようと思わない」と回答した人が56・4%と過半数を占めた。同社は「ペットのための費用は惜しまない傾向が見える」と分析する。
お父さんのお小遣いは削っても、愛犬の費用は削れない。そんな声が聞こえてきそう。