産経デジタル老齢などを理由にほうり出されたり、増えすぎたばかりに疎まれて虐待されたり…。年間20万匹近くの犬と猫が全国の保健所で殺処分されている。無責任な飼い主の存在は昔から指摘されているが、状況はなかなか改善されていない。こうした現状に昨年、動物愛護法が改正されて悪質ペット業者の規制が強化され、大阪府泉佐野市は飼い主のモラル向上のため、ふんの放置の罰金額を5倍増にした。大阪市は、市民ボランティアらが野良猫に不妊・去勢手術を施すことで「殺処分される運命の子猫」を産ませない活動に取り組んでいる。「健康な体にメスを入れることへの抵抗感はある。でも、虐待や殺処分のほうがよほど酷じゃないでしょうか」。悲しみを抱えながらのボランティア活動は、少しずつ成果を出し始めているという。
■野良猫の消えた公園
大阪市西区の靱公園。日差しに温まった落ち葉の上で、野良猫たちは気持ちよさそうに目を細めていた。野良猫たちの面倒をみているのはボランティアグループ「うつぼ公園ねこの会」のメンバー、岡崎千恵子さん(62)。岡崎さんは「この子たちは子供を産めなくなった『一代限りの命』。天寿を全うさせてあげたい」と話す。岡崎さんが言っているのは、自分たちが実践している「TNR活動」のことだ。
大阪市では、野良猫が増えるのを防ぐために平成22年から同活動を行っている。TNRとは「捕獲して(Trap)、不妊・去勢手術を施し(Neuter)、元いた場所に戻す(Return)」活動。増えすぎた野良猫を自然に減少させることを目的に、数十年前に海外で始まったとされ、世界的に広がっているという。
市内では現在、約160人のボランティアが市から活動許可を得て、「公園猫適正管理推進サポーター」として野良猫の世話をしている。具体的な活動は、野良猫に(1)不妊・去勢手術を受けさせる(2)周辺のゴミをあさらないために餌やりをする(3)公園掃除−といったものだ。
手術費用は数千円から3万〜4万円かかるが、市に申請すれば1匹あたり5千円の自己負担で済む。だが、市の予算枠は年間300万円しかなくすぐに埋まってしまうため、多くのボランティアは手術代を自費でまかなっているのが実情だ。岡崎さんは「みんな猫が好きだからやっているんですよ」と笑顔を見せるが、ボランティアの負担は決して小さくない。
市によると、TNR活動によって、24年度は市内の公園45カ所で、野良猫計51匹が減少。活動を始めてから昨年までに、5公園で野良猫が姿を消したという。
■殺処分の半分は「子供」
かつては日本でも野犬が町中を徘徊(はいかい)していたことがあった。しかし、狂犬病による犬や人の死亡事故が社会問題となり、昭和25年、狂犬病予防法が施行。飼い犬の登録、予防注射、野犬の捕獲と処分が徹底されるようになった。
環境省によると、49年度の犬や猫の殺処分は約120万匹。野犬の駆逐とともに殺処分の総数は年々減少していったが、その内容が変わっていった。飼い主に捨てられた元ペットや、飼い主自らが「不要になった」と保健所に持ち込んだりした犬や猫が、相対的に増えていった。
飼い主が責任を持って飼い続ければ、殺処分の必要のなかった命。平成23年度には約17万匹にまで減少したが、その半数以上を子犬や子猫が占めていた。こうした状況を受け、TNR活動を推進している公益財団法人「どうぶつ基金」(兵庫県芦屋市)の佐上邦久理事長(53)は「子供が生まれることを抑制すれば、殺処分数は大幅に減る」と指摘する。
保健所に持ち込まれた動物は原則、3日間で殺処分される。炭酸ガスによって窒息死させるのと、薬物注射で心停止させる方法があるが、近年、窒息死は残酷だという批判が高まり、薬物注射が増えつつあるという。だが佐上理事長は「1匹1匹、獣医師がその手で注射を打たなければならない。それは絶えられない苦痛だ」と明かす。
動物愛護の仕事に反する行為に、現場の葛藤(かっとう)は計り知れない。「殺処分を減らすことは動物のため、そして処分に携る人たちの解放でもあると思う」。佐上理事長は訴える。
■適切な飼育、法に明記
小さな命を救うためにどうすればよいのか。言うまでもないが、もっとも求められるのは飼い主のモラル向上であり、国や自治体は近年、“実力行使”に乗り出している。
大阪府泉佐野市は平成18年、ペットのふんを放置することを禁じる条例を施行した。年間約30件の苦情が寄せられていたといい、飼い主に生き物を飼う責任感とモラルを持ってもらおうという狙いだ。市はこれを発展させ、24年1月には違反者への過料を千円と定めた。
しかし、実際に徴収されることのない「名ばかり条例」で、改善はみられなかったという。そこで昨年7月、市は府警OB2人を環境巡視員として採用。同10月には過料を、それまでの5倍となる5千円に引き上げた。市の本気度を見せつけた格好で、反発も想定されたが、抗議や苦情はわずかだったという。
市は現在、次なる一手として、飼い犬1匹ごとに税金を課す「犬税」の導入も検討している。無計画な多頭飼いや繁殖への抑止効果が期待されるという。
一方、昨年9月には改正動物愛護法が施行された。ペット販売業者が売れ残った動物を保健所に持ち込んだり、飼い主が病気などを理由に引き取りを求めたりした場合、自治体がそれを拒否できるとした内容だ。
なぜこんなことが必要なのか。近年、保健所に収容される中で目立つのは、高齢で介護が必要になったり病気になったりして飼い主に疎まれ、飼育を放棄されたペットだった。また、ペットショップでは子犬や子猫は売れるものの、ある程度成長してしまうと買い手が付かず、売れ残りがペットショップやブリーダーから持ち込まれるケースも問題となっていたという。
同法には「飼い主の責務」という条文があり、「周囲に迷惑をかけない」や「感染症予防をする」などと記載されている。今回の改正では、これに「動物がその命を終えるまで適切に飼養することに努めなければならない」との文言が付け加えられた。犬や猫をきちんと飼育することは、もはやモラルの問題ではなく、怠れば“法律違反”になることを、肝に銘じるべきだろう。
posted by しっぽ@にゅうす at 01:00
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