「吾輩は猫である」の主人公となった、夏目漱石宅の飼い猫が病死したのは1908(明治41)年9月。漱石は墓標に「猫の墓」と「この下に稲妻起る宵あらん」の句を記し、寺田寅彦ら親しい弟子に死亡通知を書き送っている。
伊豆に滞在していた高浜虚子は、松根東洋城から「センセイノネコガシニタルヨサムカナ」という電報を受け取った。返電は「ワガハイノカイミヨウモナキススキカナ」。俳人同士のやりとりには哀惜の情も漂う。
夏目家にふらっと迷い込み、名前さえ付けてもらえなかった猫。かわいがられたとは言い難いが、主人らに冥福を祈ってもらえる、幸せな最期ではあっただろう。それに比べると、収容施設で命を絶たれる多くの猫や犬たちは…。
国内で殺処分される犬猫は年間に10万匹をはるかに超える。殺処分を将来的にゼロにするため、環境省が6月に行動計画を発表したのに続き、超党派の国会議員が動物愛護議員連盟の10月設立に向けて活動している。
人口当たりの猫の殺処分数で全国最多が長く続いた本県でも、大幅な削減を目指す県動物愛護計画の改定など取り組みが進む。本年度から猫の不妊手術費の助成も始まったが、こうした行政の取り組みだけでは限界があるだろう。
問われるのは飼い主のモラル。漱石のように「猫かわいがり」には程遠くても、最期まで面倒を見ることができるのか。飼い始める前に熟慮と覚悟を。