T-SITEはじめに
僕は現在、訪問型ドッグトレーナー兼ドッグリハビリストをしています。
基本的な犬のしつけはもちろんのこと、犬自身のサイコロジーリハビリテーション(※)や、飼い主さんに犬の本質や知識、犬との関わり方をレクチャーするのが主なお仕事です。
愛犬家の方々のお悩みにも様々タイプがあり、緊急を要するものからそうでないものまで、色んなご依頼を賜ります。
その中から、特に印象に残ったエピソードをご紹介します。
このお話が、少しでもあなたの幸せなドッグライフのヒントになりますように。
※サイコロジーリハビリテーション:犬が持つ本来の穏やかで安定した精神状態を取り戻す為のリハビリテーションのこと
反逆のミックス犬、次郎
今回は以前書かせて頂いたシェルター時代に印象に残った数十匹の犬の中から僕がかなり手こずった”次郎”(当時4歳)のお話をさせて頂きます。
本当に噛まれまくりました(汗)
でもその次郎が荒れる理由が意外だったんですよ。
ある日シェルターに出向くと、同僚が事務所で傷の手当をしていました。
「どした?やられたんか?」
「うん。次郎だよ。参った」
見ると結構深傷を負っていました。
「あいつ加減を知らないからなぁ(汗)」
とまぁ、こういうのは日常茶飯事の光景で僕も慣れっこになっていました。
しばらくして所長から呼ばれて次郎のいる犬舎に行くと、
「他の子はいいからしばらく次郎を専属でみてやってくれないか?」
「え?…。判りました」
「次郎のエネルギーは大き過ぎる。みんな恐怖心が出てて使いものにならん!頼むぞ!」
(えー!俺もその一人なんですけどね〜)
そう言い残し所長はその場を去りました。
普段はおとなしい次郎。
しかし近づくとグルルル…と牙を見せ「俺に近づくな!」と威嚇し、触れようとすると「触るな!」とガブッと来るんです。
僕も何回やられたことか(汗)
みんなリードを着けるのに一苦労するんです。
噛む子は今までたくさん相手してきましたし、ちゃんと矯正出来ました。
しかし次郎は勝手が違う。
(なんでだろう…?)
服従トレーニングも入らない、人も犬も寄せつけようとしない、いつも孤独に過ごす事が多い。
思い付く事、あの手この手が全く通用しない。
次郎がここに来るまで過去に何を体験したのか判りませんがその毛嫌い方はハンパじゃなかったんですよ。
(何か原因があるはずだ)
いろんな事を試しましたが、スタッフみんな口を揃えて、
「何でだろうなぁ?さっぱり判らん!」
犬の本質から考えると、むやみやたらに攻撃する犬は居ません。
犬は争いを好まない平和主義なんですよ。
だから犬が攻撃する時、それは何かを守る時なんですね。
「攻撃は最大の防御なり!」なんです。
でも、縄張りに侵入者が入ってきたとしても、威嚇して追い払う程度で命懸けで闘う事は滅多にありません。
あるとしたらヒート中の女の子を男の子同士で取り合う時ぐらいです。
この時は本当にヤバイぐらい殺し合いになります(汗)
次郎は、何かから己を守ろうと必死になっているんだと僕は思いました。(ん?待てよ…)
一つ原因が閃きました。
(よし明日試してみよう!)
僕がいつもの様に、『犬』になって次郎に闘いを挑む決心をしました。
翌日、犬舎に入り次郎のケージの前で僕が威嚇して扉を開け、次郎の目を睨みつけ手を差し出しジリジリ近づきます。
すると次郎はいきなり飛びかかってきて僕の腕にガブッと嚙みつきました。
「痛〜!」
中型犬の攻撃はなかなかインパクトがあります!僕
も怯まず次郎の首を掴んで応戦します。
そして一本背負いで地面に次郎を押し付けて様子を見ます。
すると次郎が、
「わかったわかった」とばかり負けを認めて身体から力を抜きました。「あれ?どうした次郎?一撃だけでやめるとはお前らしくないな。ん?ひょっとしてお前…」
なんだか呼吸が苦しそうです。
僕は急いで事務所に行きました。
「所長!先生は今日来られますか?」
「あぁ、もうすぐ来ると思うよ」
「次郎を診てやって欲しいんです。あいつ威勢の割には体力が無いんです。体調が良く無いんじゃ無いかと…」
「何?」
「お腹の辺りを触ると異常に嫌がりますよ」
「判った。それよりお前腕から血が出てるぞ。先に手当てしろ」
「は、はい」
「無茶しやがってバカタレ!」
「すみません(汗)」
腕の手当てが済み、しばらくしたら獣医さんが往診にみえました。
「先生。次郎の様子がおかしいんですよ。お腹が痛いみたいで…」
「そうか。診てみよう」
僕が次郎に口輪をはめ、リードを着けて押さえます。
次郎も抵抗する気力もありません。
「うん。確かにお腹が張ってるな。何だろう?今からうちに連れてきなさい。レントゲンを撮ろう」
「はい!お願いします!」
そのまま車に乗せて病院に行きました。そしてレントゲン写真を見て先生と僕は愕然としました。何と次郎の胃の中に四角い変な影が!
「異物誤飲?」
「うん。何か飲み込んでるな」
「先生!早く取ってやってください!」
「よし。じゃあ今から手術だ」
「開腹ですか?」
「いや負担を考えるとそれはやめておこう。カテーテルでやってみる」
「お願いします!」
そして全身麻酔から1時間ぐらいで取り出すことに成功しました。
出てきたのは長方形の四角いビニール袋に入った単3乾電池2本でした。
先生が、
「袋が破れてなくて良かったな。これは昨日今日じゃないよ。数ヶ月は経ってるな。手遅れにならずに良かったよ」
(次郎…。痛かったんやな。辛かったなぁ。早く気付いてやれずすまん)
申し訳なさでいっぱいでした。
思い返せばシェルターに来てから餌を残したり下痢が続いたりしていました。
反省ばかりです。
次郎は正に『手負いの獅子』ならぬ『手負いの犬』だったのです。
痛みで精神的に追い詰められていたんです。
だから己の身体を守る為に群れにも寄り付かず、誰から触られるのも拒み続ける必死の反逆だったんですね。
カウンセリングサマリー
症状
犬、人を極度に嫌う。寄せ付けない。攻撃性がハンパではない。
原因
過去に誤飲した物が胃の中に長く留まっていた為、痛みや体調不良による拒絶反応だった。
対策
異物を胃から取り除く手術。
体調が良くなり次第、服従トレーニングの再開。
社会化の再教育。
posted by しっぽ@にゅうす at 08:25
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犬
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