不妊手術・現場ルポ(1)
捨て猫は大量に繁殖して、悲惨な死に方をする。この不幸の連鎖を止めるには不妊手術しかないのが実情だが、「かわいそうだ」と二の足を踏む人も多い。だが、そういう人ほど、不妊手術がどんなものなのか、知らないのではないか。
そこで不妊手術の現場を2回に分けて報告しよう。国内のあちこちに出かけ、野良猫の一斉不妊手術を無料で行っている団体がある。公益財団法人「どうぶつ基金」(兵庫県芦屋市)だ。
どうぶつ基金は、11月24、25日の2日間、新潟市で一斉不妊手術を行い、計59匹を手術した。今回の対象は、新潟市の東のはずれ、新潟東港釣り公園に住む猫たちだ。県の指定を受けている釣り場管理団体「ハッピーフィッシング」と、新潟の動物保護団体「あにまるガード」が、同基金に依頼して一斉手術が実現した。
一斉手術が行われた動物保護団体「あにまるガード」の拠点の小屋=駅義則撮影
捕獲器の外から麻酔を注射
11月25日。一斉手術の2日目に現場を訪れた。新潟市南西部の山すそにある、「あにまるガード」の活動拠点の小屋で手術が行われた。新潟東港の公園で捕獲された猫が、ケージや捕獲器に入れられ、車で次々と運ばれてきた。そのほとんどが子猫だった。
手術にあたるどうぶつ基金の獣医師は2人、それにあにまるガードのスタッフら数人が補助を行う。猫の不妊手術が可能になる目安は、生後半年以降か体重2キロ超とされる。ただ、医師の腕次第では、もっと早くても大丈夫だ。
まずはケージや捕獲器の外から、体格に応じた量の麻酔薬を数回に分けて注射していく。逃げられたりかまれたりしないようにするためだ。完全に麻酔が効いたら外に出す。
捕獲器の外から麻酔を注射する=駅義則撮影
捕獲器の外から麻酔を注射する=駅義則撮影
次に不妊手術の証しである耳カットを行う。地域や団体、医師によって先端を平らに切ったり、オスは右耳、メスは左耳の先を切ったりするなどの違いがある。どうぶつ基金の場合は性別を問わず右耳の先端をV字にカットする。その耳の形から、手術後の猫を「さくらねこ」と呼ぶ。
切った後ははんだごてを使って傷口を消毒。合わせて手術を行う下腹の部分の周囲の毛を、バリカンで注意深くそる。
麻酔し、右耳の先端をカット=駅義則撮影
手術の日は、朝から食事させないのが通例だ。全身に麻酔が効くと嘔吐(おうと)することが多く、胃に固形物が残っていると逆流してのどに詰まり、死んでしまいかねないからだ。一斉手術の場合は野良猫なので、そうした管理も難しく、ときには糞尿(ふんにょう)を漏らしている猫もいる。その場合は、腹をマッサージしてすべて排出させる。
いよいよ手術台に向かう。手術自体の話は次回、詳しくリポートする。
漁師にも見守られる猫たち
不妊手術が終わると、もとの港に放される。これから冬本番の新潟で、猫は大丈夫なのかとも思う。だが、あにまるガードの本多明代表によると、港の近くに液化天然ガス(LNG)施設があって身を隠すところがあり、冬場でも生きていけるという。漁師たちも売りものにならない魚を分け、猫たちを常に見守っているという。
「あにまるガード」の本多明代表(右手前)ら=駅義則撮影
次々に猫が手術を受けるそばで、県動物愛護センター主査で獣医師の上杉晶さんが手術の様子を熱心に動画撮影していた。上杉さんの名刺の裏には「新潟県動物愛護センターは毎日が譲渡会! たくさんの犬や猫が新しい飼い主を待っています」との文字と、猫の写真が印刷されていた。
センターは、保護している動物の情報をインターネットで詳細に見られるようにしている。その情報に携帯電話ですぐアクセスできるよう、上杉さんの名刺の表にQRコード(二次元バーコード)が。ここまでの情報が記載された名刺は初めて見た。「新潟県は動物の愛護意識が高いですよ」との彼女の言葉に納得する。
どうぶつ基金は全国で出張不妊手術を行っている。NHKの「クローズアップ現代+」で11月半ば、大量繁殖した猫が飼い主の手に負えなくなる「多頭飼育崩壊」が取り上げられた。その番組で、この団体が80匹の不妊手術をした例が紹介された。
次回は手術の状況に加え、どうぶつ基金の全国での活動を紹介する。
<次回は12月7日に掲載予定です>