ただネコを愛するだけじゃない。商品の売り上げを基金に積み立て保護団体の活動や譲渡会などを支える“部活動”がある。「フェリシモ猫部」。CSRにもつながるユニークな活動とは。
55匹のネコとの“お見合い”だ。会場は新しい家族を迎えようという人々の熱気に包まれていた。
神戸市で11月13日に開かれた保護ネコの譲渡会。通信販売大手のフェリシモ(本社・神戸市)とNPO法人神戸猫ネットとの共催で4年前から始まり、23回目を数えた。捨てられたり殺処分されそうになったりしているネコたちを保護し、再び家庭に戻す神戸猫ネットの活動にフェリシモ猫部が賛同したのが、譲渡会開催のきっかけという。
●ネコに恩返しの「猫部」
フェリシモはともかく、「猫部」?
「社内のネコ好きが集まって作った部活動なんです」
部長の松本竜平さんが説明してくれた。
フェリシモでは2010年、水曜日の午前中は日常業務から離れて好きなことをしてもよいという「社内部活動」の制度ができた。女子DIY部やオーガニックコットン部など、さまざまな部が作られるなか、ネコ好きの松本さんが思いついて結成したのが猫部だった。
現在、部員は男性が松本さん1人、女性9人の計10人。ネコを飼っていなくても、ネコ好きであればだれでも部員になれる。部是は「猫と人がともにしあわせに暮らせる社会を目指す」だ。
猫部の特徴は、いわゆる同好の士の集まりという範疇を超えた、その活動内容だろう。
ネコ好きのための商品やネコ用グッズを企画・開発。ホームページにネコギャラリーやブログを掲載し、サイト訪問者も「猫部員」と位置づけ、積極的に交流している。発足当初から目標にしていた事業化も、兵庫県西宮市の複合ショッピングモール「阪急西宮ガーデンズ」に今年10月、初の旗艦店をオープンさせるなど、着実に具現化している。
「部員は、いつも自分たちを癒やしてくれるネコに恩返しがしたいという気持ちなんです」(松本さん)
活動の核となる商品の企画・開発は、週1回、メンバーが集まって考える。これまでに商品化されたのは約200品。記念すべき最初の商品化は、ネコのモチーフのネックストラップと、しっぽ付きのポーチだった。最近の売れ筋は、手帳シールや付箋など。なかでも注目されているのが、「あの猫(こ)とおそろい!? プニプニ肉球の香りハンドクリーム」だ。なんと“肉球の香り”がするのだとか。色味もピンク、オレンジ、あずき色、グレーの全4色を展開。好みの「肉球色」に合わせて選べるという。自分の手をネコと同じ香りにしていつも嗅いでいたい。そんな偏愛……いやネコ愛が形になった商品だ。
●売り上げの一部「猫基金」
あふれるネコ愛を発散するだけではなく、猫部の活動はCSRにも広がっている。
企画・販売するすべての商品は、売り上げの一部が「フェリシモの猫基金」に積み立てられる。
「動物の殺処分問題を何とかしたいという思いが猫部のベースにあり、基金で動物愛護団体を支援しています」と松本さんは話す。積み立てた基金は、保護活動や里親探しの活動、野良ネコの過剰繁殖防止活動などをしている全国の動物愛護団体へ寄付される。顧客は商品を購入することで、活動を間接的に手助けできるという仕組みだ。
猫基金以外にも地域のボランティア団体と協力した譲渡会の開催、寄付活動への呼びかけにも力を入れている。
もともとフェリシモには基金事務局があり、毎月1口100円から国内外の植林活動を支援する「フェリシモの森基金」をつくったり、途上国支援をしたりと、CSRが盛んだった。さらにイヌやネコなどの保護活動のための「フェリシモ わんにゃん基金」をはじめ、「猫基金」にも連なるこれらの活動に取り組むようになった背景には、11年の東日本大震災がある。
●背景に東日本大震災
発生から間もなく、さまざまな理由で被災地に取り残されたイヌやネコたちの実態が報じられるようになった。
「原発の避難区域内に残されたペットたちは、餓死してしまったり、たとえ保護されても飼い主が見つからなかったりと、大変な状況に置かれていました。そんな時に『フェリシモさん、もっと支援できませんか?』というお客さまのお声を猫部にも多数いただいたんです」(松本さん)
多くの活動は、フェリシモのこうした企業風土の中から生まれたものなのだろう。
さて、冒頭に紹介した譲渡会の様子に戻ろう。
希望者は、1人3匹まで希望の猫をアンケート用紙に記入。そのあとは里親希望者、猫の保護者と神戸猫ネットスタッフの3者で面談をし、人にもネコにも望ましい関係が築けるかをヒアリングする。後日ボランティアスタッフが希望者の自宅まで保護ネコを届け、1〜2週間のお試し期間、「トライアル」を過ごし、問題なければ正式な譲渡となる。
ある40代男性は、小学校低学年の娘と妻とで初参加。
「ネコを飼いたいと思ってネットで調べていたところ、この活動を知りました。同じ飼うなら、ペットショップなどでなく、こういう形で支援ができたらいいなと思ったんです」
保護ネコという言葉からこれまで抱いていたイメージに反し、きれいにケアされたネコばかりで驚いたという。
「安心して選ぶことができました」
西宮市から訪れた60代夫妻は、
「とてもよい活動ですよね。保護主さんのお話をうかがうと、責任を持って里親になりたいと思いました」
今回は2匹のネコを譲り受けたいとエントリーした。
「よくがんばりました」
神戸市内で野良ネコが増えたのは、1995年の阪神・淡路大震災の影響が大きいという。
「不妊手術をしていなかった家ネコが震災で外へ逃げたり、仮設住宅では飼えない、と捨てられたりしたんです」
神戸猫ネット理事長の杉野千恵子さんは話す。過去22回の譲渡会で、計200匹以上が新しい家族のもとに引き取られていった。
「新しい飼い主さんが見つかると、またほかの野良ネコを保護できるようになります。一匹でも多くの命が救われ、終生幸せに暮らしてほしい」(杉野さん)
フェリシモ猫部のブログに掲載される譲渡会報告には、いつもこの文言がある。
「みんなよくがんばりましたね」
厳しい環境で生き延びてきたネコたち。この日の譲渡会では18匹がトライアルに向かい、新しい家族との暮らしに向けて、一歩を踏み出した。(ライター・いなだ みほ)
※AERA 2016年12月19日号