動物 しっぽニュース
認定NPO法人HOKKAIDOしっぽの会

2016年12月21日

野良犬・野良猫に受難の冬! 「殺処分ゼロ」のドイツやイギリスは民間動物保護団体が活躍

ヘルスプレス


凍てつく酷寒や強風が小さな命を脅かしている。つい最近もペットではないが、佐賀の高校生が庭先にあらわれたアナグマ(狸)を撲殺、血を流して死んだ画像と「バットでフルスイングしてぶち殺してやった」との書き込みをツイッターに投稿したため、非難が殺到している。

 あなたの街にも、名もなき「捨て犬」たちや「捨て猫」たちが生きているかもしれない。だが彼らは、「飼い犬」や「飼い猫」とはまったく異なる悲惨な状況に追い込まれながら、冬空の下で辛うじて小さな命を繋いでいる。

殺処分は年間約8万2900頭も

 飼い主が何らかの理由で飼えなくなったり、飼い主が分からなくなった犬・猫たちは、都道府県の保健所や動物愛護センターなどの行政施設に引き取られる。

 引き取られた犬・猫たちは、飼い主が見つかれば、返還・譲渡されるが、返還・譲渡されない場合は、飼育管理を続けるのは経済的・物理的に困難なため、止むを得ず殺処分される。

 動物の虐待等の防止を定めた動物愛護法が制定された1973(昭和48)年当時は、120万頭以上の殺処分が行われていた。2013年に動物愛護法が改正され、飼い主やペット業者の責任や義務が強化されるとともに、殺処分ゼロに取り組む自治体が増えたため、年々減少傾向にある。

 環境省の調査によると、2015(平成27)年の犬・猫の殺処分数は年間約8万2900頭。その数は激減しているものの、殺処分が続いている事実は変わらない。

 自治体の取り組みや、殺処分ゼロを継続する海外の事例を見てみよう――。

殺処分ゼロを達成した自治体の取り組み

 まず、神奈川県は2013年から2015年の3年間、犬の殺処分ゼロ、2014年から2015年の2年間、猫の殺処分ゼロを達成した。神奈川県によると、正当な理由がない限り引き取らず、動物保護センターへ収容される犬・猫を減らしつつ、ボランティア団体などの協力で保護センターから譲渡する出口を広げた。動物保護センターは、犬・猫にマイクロチップを埋め込み、所有者を明確にしたため、返還率が上がったという。

 札幌市動物管理センターは、2年連続で犬の殺処分ゼロを達成した。毎日新聞によると、ボランティア団体の協力によって譲渡率がアップしたり、収容期間を7日間から無期限に延長したことが大きな要因だ。今後は猫の殺処分ゼロに努めていく。

 2014年に犬の殺処分ゼロを達成した熊本市は、2002年に動物愛護推進協議会を設立。無責任な飼い主への飼養継続を説得したり、返還・譲渡を推進したり、動物ふれあい教室やしつけ教室を開催して適正飼養・終生飼養を啓発する活動に地道に取り組んできた。獣医師会、ボランティア団体などが協力し、活発な里親探しも成果に繋がった。

 2011年に犬・猫の殺処分数が8340頭の全国ワーストを記録した広島県は、今年4月から殺処分ゼロをキープしている。それを支えているのが、広島県神石高原町に本部を構えるNPO法人のピースウィンズ・ジャパン(PWJ)が運営するピースワンコ・ジャパン・プロジェクトだ。2013年から殺処分対象の犬を引き取ってきた。4月から9月までの半年間で動物愛護センターから引き取った犬は361頭にのぼる。

 2014年9月には、ふるさと納税制度の使途指定先として、神石高原町内に本部を置くNPO法人も選べるように改善したところ、PWJを指定した納税が約1年半で4億円を超えたことも追い風となった。2020年までの全国的な殺処分ゼロの実現に向けて、10月からは「ふるさとチョイス」で寄付金10億円を募っている。

 東京都の場合はどうか? 2015年の犬・猫の殺処分数は979頭。猫が927頭(95%)を占める。公約に「ペット殺処分ゼロ」の実現を掲げている小池百合子都知事は、8月にフリーアナウンサーの滝川クリステルさんと対談し、「2020年東京五輪・パラリンピックをひとつの期限とした上で、東京都でいい例を示せるようにしたい」と話している。

 このように、「殺処分をなくそう!」の機運やコンセンサスが全国的に高まっている。次に海外の動きを見てみよう。

殺処分ゼロの動物福祉国ドイツやイギリスは寄付金が推進役

 欧米諸国では、民間動物保護団体が大きな役割を果たしている。民間動物保護団体は、各地で動物保護施設を運営し、飼い主に捨てられた犬・猫、野良犬・猫を受け入れ、飼養管理しながら、新たな飼い主の斡旋に努めている。社会的なコンセンサスやシステムが形成されているようだ。

 特に動物福祉国ドイツは、原則として殺処分はない。民間動物保護協会が運営する大規模な動物保護施設「ティアハイム」は、全国500カ所以上の民間シェルターを展開しつつ、動物の保護と飼い主の斡旋にひたすら携わっている。犬・猫をはじめ多種多様な動物を保護し、年間約1万5000頭の動物を収容。譲渡率9割を誇る。施設の犬・猫を引き取って飼い主となるためには、飼育環境などの厳しい審査がある。

 ティアハイムなどの750以上の動物保護協会を束ねるのが「ドイツ動物保護連盟」だ。連盟の収入約1060万ユーロ(約12億8000万円)のうち、約900万ユーロ(約10億9000万円)が寄付・遺贈だ。ティアハイムの運営資金も企業や個人などからの寄付金が主な収入源。ティアハイム・ベルリンで働く従業員は140名、ボランティア数は600名。運営母体の財力と人力、それが日本との際だった違いだ。

 イギリスでも英国動物虐待防止協会(RSPCA)をはじめ、バタシー・ドッグズ&キャッツ・ホーム、犬専門のドッグズ・トラスト、猫専門のキャッツ・プロテクションなどの民間動物保護団体が動物保護施設を自主運営し、飼い主の斡旋などに大きく貢献している。RSPCAの収入約1.2億ポンド(約174億円)のうち、約1億ポンド(約145億円)が寄付・遺贈で賄われている。

 このように、欧米では運営資金は税金ではなく、寄付金で支えられていることが分かる。欧米諸国の国民、企業、行政などが連携しながら、動物愛護を広げるコンセンサスもシステムも浸透しているのだ。

 日本の現状や海外での取り組みを見てきた。欧米諸国が実現している仕組みを日本にも広げたいものだ。幸い自治体の取り組みが活性化し、殺処分ゼロに向う兆しがある。しかし、年間8万頭以上もの犬・猫が殺処分されている。凍てつく酷寒や強風が小さな命を脅かしている。殺処分から逃れられない儚い脈動が夜空の下で震えている。道半ばだが、私たちも良心の結束を強めていこう。
(文=編集部)




posted by しっぽ@にゅうす at 07:59 | ペット | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

戦時中にゾウだけではなく、犬も猫も犠牲となった

アメーバニュース


『かわいそうなぞう』という哀しい絵本がある。
戦時中、上野動物園では動物を毒殺しなくてはならなくなった。万一に備えての命令が下ったからである。しかし賢いゾウは、毒入りのエサを食べないため、しかたなく餓死させることとなった。ゾウは衰弱した体で芸をして、エサを必死にねだった。これは、動物園の動物達だけに起こった話かと思ったら、違った。家庭で飼われていた犬や猫も、戦争の犠牲になっていたのだ。


ペットを供出する理由
山梨県にある私の実家には、取っ手がない古いタンスがある。取っ手は戦時中に「供出」したのだという。兵器の材料が足りないということで、金属類を各家庭が差し出した。大きなノミのようなもので荒々しく削られた跡が付いているそのタンスは、とても開けづらかった。この供出、地域によっては犬や猫に対しても、命令が下ったことがわかってきた。
なぜ大切なペットを殺さなくてはならなかったのか。
『犬やねこが消えた 戦争で命をうばわれた動物たちの物語』(井上こみち・著/学研プラス・刊)はその残酷な光景を体験者達に取材し、児童にもわかりやすく説明している貴重な本である。
本によれば犬や猫に供出命令が下された理由は幾つかあった。まず、空襲などの時に興奮して他の人に危害を及ぼす危険、それから狂犬病の根絶のため、また、人間でさえも食べるのに難儀しているのだから、ペットまで食べさせる余裕がなかったという事情もある。さらに、これは心底驚いたのだけど、毛皮の調達のためだった。戦地に向かった兵隊の寒さをしのぐために、犬や猫は殺され、皮を剥がされたのだ。

犠牲になるもの
本では、実際に犬の毛皮が使われた防寒具も発見し、犬猫の供出が事実であったことを裏付けていた。農耕に使われていた馬も、軍用での供出を命じられ、海外の戦地などに送られたという。犬の中には捜索などに役立てるため、戦地に送られたものもいるという。「無事に帰国できた軍用犬や軍馬はいなかったと言います。戦後、外地からの引き揚げ船には、一頭の犬の姿もなかったそうです」とあるので、馬や犬の運命を思うと本当にやるせない。
戦争では、弱く小さなもの達が犠牲になっていく。防空壕で泣き出した赤ちゃんに対し、敵軍に見つかってしまう、殺してしまえと厳しく迫った人が何人もいたという。実際に赤ん坊の命が奪われたこともあったという。犬や猫も、そして赤ん坊も、いったい今何が起きているのか理解できないまま戦時中を過ごしていたに違いない。それなのに命を失っただなんて、かわいそうすぎて言葉も出ない。

現代と数を比較する
昭和19年、北海道では犬皮が1万5000枚、猫皮が4万5000枚集まったという。北海道だけで合計6万もの小さな命が失われていたのだ。現代に目線を移し、平成27年度の殺処分頭数を見ると、北海道は犬が90匹、猫が1301匹と比べ物にならないくらい少ない(全国合計だと犬が1万5811匹、猫が6万7091匹である(環境庁調べ))。
ペットの毛皮まで差し出さなくてはならないほどに物資難だった当時。その頃、犬も猫も人間と同じようにいつもお腹を空かせていたに違いない。そんな中、供出の日は、たっぷりとご飯を食べさせて送りだす飼い主達の姿があった。それが、せめてものお詫びだったからなのだろう。

非常時の生きざま
私は先日、とある数字を目にした。
昭和20年に山梨でワインが驚くほど大量に、例年の何倍もの量の生産をされていた、というものだ。それは人々が飲むためではなかった。ワインの製造過程でできるロッシェル塩が、潜水艦などに搭載する水中聴音機の部品になるからだという。お国のために、普段はブドウ畑でなかったところでもブドウを作らせたのではないだろうか。
終戦直前の追い詰められた状況下で、「戦いに勝つためには、もうこうするしかないのだ」、という祈りにも似た切羽詰まった思いで日本中が突っ走っていたのかもしれない。「(戦時下は)いったん走り出したら誰にも止められない恐ろしい力がはたらいてしまう」と本にも書かれてあった。突然、犬や猫の姿が街から消えたその日、人々はどれだけ辛かったことだろう。本を読み終えた後街に出て、ゆったりと散歩する犬と飼い主を見つけた時、この光景がいつまでも続くようにと願わずにはいられなかった。
(文・内藤みか)


posted by しっぽ@にゅうす at 07:53 | 動物 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

なぜ犬はときどき穴を掘ろうとするのか?

@DIME


かつて、野生の犬は、穴を掘るって寝床をつくる、食料を隠す、外敵から身を守る、涼む、出産、育児などを行っていました。

愛犬が眠る前にクルクルとまわって床やベッドをガリガリとするところを見たことがある人も多いかもしれません。あれは、穴を掘り、寝床を作り、外敵から身を隠したり、風をよけたりしていた名残と言われています。

ガリガリとすることで、自分好みの居心地のよい空間を作っていたんですね。

また、習性によるガリガリは当然心配ないのですが、ストレスでガリガリする犬もいます。

これは、床を掘ることにより気持ちを落ち着かせたり、飼い主にストレスを気づいて欲しいといういわゆる「カーミングシグナル」の可能性も。意味もなくガリガリが激しい場合は、欲求不満やストレス、不安感から来ている場合もあるので、気になるようなら専門家に相談してみることをおすすめします。

文/大原絵理香(ペットゥモロー編集部)


posted by しっぽ@にゅうす at 07:53 | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

増殖する外来生物と在来生物の「交雑種」 放置し続けてもいい問題なのか?

THE PAGE


今までその国に存在しなかった生物が何らかの手段で侵入し、在来種を駆逐してしまうケースを紹介してきました。さらに外来種が在来種と交尾をして、新たなる「交雑種」を作り出してしまうという生態リスクが報告されています。

 水産物や農作物の収穫や人間に直接、危害を与えるもの以外は、重要視されないこともありますが、研究者の間で懸念されている問題について、国立環境研究所・侵入生物研究チームの五箇公一さんが解説します。

【連載】終わりなき外来種の侵入との闘い
外来種と在来種から生まれた交雑種が増殖中


タイリクバラタナゴ 出典「ぷいぷいユッケ(WEB魚図鑑)」
 外来生物がもたらす生態リスクのひとつに「種間交雑」があります。外来生物と在来生物が交尾をして、雑種をつくるという現象です。例えば、1940年代に食用として中国から導入されたハクレンやソウギョといった大型魚に混じって、タイリクバラタナゴという小型の魚も持ち込まれましたが、日本各地の湖沼に定着して、日本在来のニッポンバラタナゴという近縁種との交雑が進み、日本の純粋なニッポンバラタナゴが、雑種に置き換わってしまい、ほとんどいなくなってしまったという事例があります。


雑種タンポポの見分け方(出典:農研機構)
 また私たちの身近に生えるタンポポのほとんどは日本産タンポポとヨーロッパ原産のセイヨウタンポポとの交雑によって生じた雑種タンポポとされます。このケースでは、外来タンポポが日本産タンポポの遺伝的特性を取り込むことによって、生まれた雑種はいっそう日本の環境に適応した「スーパー雑種」となり、外来タンポポ集団すらも駆逐しながら分布を拡大していると報告されています。

 1970年代に食用として大陸から持ち込まれたチュウゴクオオサンショウウオが京都の鴨川水系で増殖し、元々住んでいたオオサンショウウオとのあいだで交雑が進み、オオサンショウウオの純系が絶滅寸前になっていることも有名な事例です。京都市では2011年から捕獲個体のDNA分析を進めていますが、2013年以降、同水系では、外来オオサンショウウオか雑種の個体しか確認されておらず、関係者は危機感を募らせています。

外来遺伝子に浸食される、ニホンザルの遺伝子組成


アカゲザル(写真提供:環境省)
 千葉県の房総半島ではアジア大陸産のアカゲザルが定着しており、現地のニホンザルと交雑していることが遺伝子解析によって確認されています。外見上は、雑種個体はニホンザルと見分けがつかず、知らず知らずのうちにニホンザルの遺伝子組成がアカゲザルの遺伝子に浸食されていく事態を動物学者たちは憂慮しています。

 同様に和歌山県では台湾産のタイワンザルが分布を広げて、ニホンザルとの交雑種が増えていることが問題となっています。こちらのケースでは、尻尾の長さが両種の間で明確な差があり、雑種はその中間的な長さになるという特徴があります。


タイワンザル(出典:国立環境研究所 侵入生物データベース)
 アカゲザルおよびタイワンザルに対して、農作物等に対する被害に加えて、この交雑のリスクを理由として、環境省は2005年に「外来生物法」の特定外来生物に指定しました。これを受けて、各地で外来サルと雑種の個体を捕獲する事業が進められましたが、その処分を巡っては賛否両方の意見が地方自体や環境省に寄せられており、ニュースにもなりました。

外国産クワガタムシの飼育ブームがもたらしたもの


インドネシア・スマトラ島産オオヒラタクワガタと日本産ヒラタクワガタの交雑個体(写真:著者提供)
 1990年代から2000年代にかけて外国産クワガタムシの飼育が大ブームになりましたが、特に外国産ヒラタクワガタが人気で大量に海外から輸入されました。ヒラタクワガタ(学名Dorcus titanus)は、日本列島のみならず、東アジアおよび東南アジア域にも広く分布しており、地域ごと、島ごとに独自の形質をもつ集団=亜種に分化しています。

 国立環境研究所が日本国内および海外に生息するヒラタクワガタ地域集団のDNA変異を調査した結果、アジア全体のヒラタクワガタは500万年以上の時間をかけて、多様な遺伝的系統に分化しており、形態上の亜種内にもさらに細かく分化した地域系統が含まれていることが明らかになりました。日本列島内にも島によって異なる遺伝子組成をもつ集団に分化しており、遺伝的多様性と固有性の高い種としてアジアのヒラタクワガタは存在します。

 ところが日本人がペットとしてこれらの地域集団を移送することで、異なる遺伝的系統の間で雑種が生じる恐れがあります。実際に日本産ヒラタクワガタと東南アジア産ヒラタクワガタを実験的に交配すると、両者の形質を受け継いだ雑種が生まれることが示されています。さらに雑種同士をかけあわせると次の世代が誕生し、さらに次の世代に繋がる、という具合に雑種には妊性があることも示されています。

 このことから、もし、野外で雑種が生じたら、日本産集団のなかに外国産ヒラタクワガタの遺伝子が容易に拡散していく可能性があります。実際に国内から、外国産系統の遺伝子をもつ個体が採集された記録もあり、今後も遺伝子撹乱が生じていないか詳細な調査が求められます。

ホタルの移送に見る遺伝的多様性・固有性の撹乱という生態リスク


ゲンジボタル発光の軌跡(写真提供:宇田川弘康)
 このように交雑によって地域集団の遺伝子組成が撹乱されるという生態リスクは、日本国内に生息する種の地域集団を移送することでも生じます。日本では地域振興の一環として、あるいは自然再生活動の一環として、ホタルの養殖と放流が行われることがありますが、実はホタルにも地理的な分化が存在し、放流のための人為移送がこのホタルの地理的変異を撹乱することが問題視されています。

 本州、四国および九州に広く分布するゲンジボタルには明滅パタンの異なる東日本型と西日本型が存在する。この二型の分布はフォッサマグナと言われる地溝帯によって明確に境界線が引かれており、日本列島の形成史にあわせて、ホタル集団の分化が進んだことが示唆されています。近年のDNA分析によって、ゲンジボタルにはさらに細かく6つの地理的分集団が存在することが示されており、その塩基配列情報から、ゲンジボタルは今から1500万年という古い時代から日本列島での分布を開始し、東西日本の発光パタンの異なる型は今から500万年前に分化したと推定されます。

 ホタルの移送はこの遺伝子の地域固有性を崩壊させ、ホタルの長い進化の歴史と系譜を喪失させることになる……これは生物多様性の一大事である、と多くの保全生態学者は捉えて、ホタルを人為的に移送すべきではないと唱えます。しかし、一方で「ホタルの遺伝子が混じって何が悪い?」「ホタルが増えてくれれば喜ぶ人も多い、それの何が悪い?」と考える人も少なくはないはずです。

 同じ外来種の生態リスクでも、水産資源や農作物が食べられる、といった直接的被害ならば、多くの人に理解され易く、また対策の必要性についても納得してもらえます。しかし、遺伝的多様性・固有性の撹乱という生態リスクは、多くの人にとってピンとくるものではないと思われます。実際、野生個体群の遺伝子組成が改変されることで、私たち人間生活にどんな障害が生じるのかと問われても簡単にはいい答えは見つかりません。

 それゆえに、遺伝的多様性の撹乱リスクに対しては人によってその受け止め方に温度差があり、対策を講じる上で合意を形成することが難しいケースも出てきます。また、人間の都合で解釈が大きく変わることもあります。つまり、絶滅に瀕する生物種の集団に別の地域からの集団を移植して、遺伝的多様性を回復させて、絶滅を回避するという対策がとられることがあります。

 例えば、北米のフロリダパンサーはかつてアメリカの東南部に広く分布していましたが、狩猟によって個体数が減少し、フロリダ南部にわずかな小集団が生息するのみとなりました。その結果、集団内の遺伝子多様性が著しく低下してしまい、様々な疾患や奇形が生じて絶滅の危機に立たされました。そこで、アメリカ政府の決定により、テキサス州に生息する近縁亜種の個体がフロリダに導入され、種間交雑によって遺伝子の多様性の回復が図られました。この試みは成功し、フロリダパンサーの個体数は大幅に増加しました。しかし、一方で、この保全策によってフロリダパンサーの遺伝子の固有性は損なわれたということもできます。

 生物移送による交雑リスクの問題は、人間の価値観によって大きく左右される問題でもあり、今後も様々なケースを科学的に分析して議論を重ねていく必要があります。

【連載】終わりなき外来種の侵入との闘い(国立研究開発法人国立環境研究所・侵入生物研究チーム 五箇公一)

posted by しっぽ@にゅうす at 07:53 | 動物 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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