今秋に予定されている動物愛護法の改正は、犬、猫の殺処分ゼロを目指し、ペット販売業者やブリーダー(繁殖・育種業者)を従来の登録制から免許・許可制へ規制強化するとともに、ペットの販売対象を生後8週齢以上に厳格化するなど、よりペットの生命を保護する規制が盛り込まれる見通しだ。獣医師の立場として動物愛護法の改正をどう受け止めているのか。岡山市獣医師会副会長の松本通博さん(54)=パーム動物病院院長=に改正法への要望や問題点を聞いた。
―全国自治体はペットの殺処分ゼロを目標に掲げ、ペットの販売、繁殖業者らの監視を強めるとともに、飼い主にも終生の伴侶としてペットの飼養に責任を持って対応するよう指導してきた。現状はどうか。
かつて岡山県内の犬、猫の殺処分頭(匹)数は、2005年当時、年間でざっと7000頭に上ったと聞いている。殺処分が減ったのは前回の法改正の効果が大きい。それまでは保健所などで犬、猫を無条件に引き取っていたが、改正以後は特別な理由がない限り、ペットの原則引き取りを拒否できるようになった。加えて保健所などから収容されたペットを引き取り、新たに飼い主を探す活動をするNPO団体などが増えたことが大きな要因だ。
―数字の上では前回の法改正の効果が十分に出ている。岡山県でつくった動物愛護管理計画(14年度〜23年度)でも、目標の殺処分数字は現時点ですでにクリアしている。
数字の上では確かに成果はあがっている。しかし、問題は保健所から引き取りを拒否されたペットが、その後実際にどうなっているかが大きな問題だ。避妊手術をしないで多頭飼育をしている飼い主や、繁殖や販売が難しくなった老犬などを抱えるペットショップやブリーダーが、処分に困ったペットをどう扱っているのか、多分、山間地などに生きたまま遺棄され、野良犬になっているケースも多いのではないか。一部マスコミでも取り上げられたが、こうした老齢化した犬、猫をペットショップなどから安い価格で買い上げ、さらに繁殖させるという闇の引き取り屋、あるいは処分屋と呼ばれる業者もいると聞いている。動物がモノ同然に扱われる実態は、動物愛護の精神とはかけ離れている。殺処分ゼロは理念としてはすばらしいが、逆にこうした規制が闇の処分に繋がっているとしたら大変な問題だ。
―今回の法改正ではほかに生後8週齢以下の子犬や子猫の販売を禁止し、ペット販売などの取り扱い業者をこれまでの登録制から免許・許可制にして、業者の監視を強める動きも出ている。
ペットは子犬、子猫が人気だから、販売業者、ブリーダーも生後間もない時に親から離し店頭に並べるケースが多い。その結果、混合ワクチンが未接種で免疫力が弱い子犬などが多く、飼い主が購入後、すぐに感染症を発症する事例が数多く見られる。また母親から早く離す結果、ペットに与える情緒面での影響が懸念される。子犬は離乳まで親、兄弟と一緒に育ち、健康な体と社会性を身に付けるが、8週齢以下の短い期間で親から離れると免疫力が低下し、社会性が養われないことで、将来人に懐かなかったり、噛み付いたり、しつけが難しい成犬になることが多く、生態的にも問題がある。
飼い主から捨てられ、保健所に収容された犬、猫はいろいろな理由で人を警戒することが多いが、こうした里親探しのNPO活動を円滑に進めるためにも、8週齢以下の販売禁止は重要なことだ。ペットの体内に個体を認識できるマイクロチップを埋め込むことを義務化する動きもあるが、遺棄や闇の処分を防止する意味では有効な方法だと思う。しかし、それにもまして飼い主がまず適切なペットの避妊手術、病気予防のケアなどを守り、終生の伴侶として末永くペットと連れ添う姿勢が大切であることはいうまでもない。
(2018年07月30日 17時29分 更新)