東京・上馬にある感応寺は、「猫寺」の愛称で親しまれている。住職の猫好きもあって地域猫や、保護猫を寺で受け入れてきているという。さながら、「猫の駆け込み寺」のようだ。
境内に猫が多いだけではない。感応寺では供養の依頼が人間(檀家)よりも、ペットのほうがはるかに多い。年間の葬儀・法要件数の内訳を見てみるとペットが46%、水子が41%、祈願やお祓いが8%。人間相手の法要は5%に過ぎないという。
ペット供養をすることになったいきさつ
住職の成田淳教さん(43歳)が取材に応じ、ペット供養のいきさつを教えてくれた。
当記事は、AERA dot.の提供記事です
成田さんが感応寺の住職に迎えられた15年前、身の回りでいくつかのペットの死に関する出来事が重なった。ペット葬はまだ一般的ではなかった時代のことだ。
「山門の前に死んだ猫の遺体が布に包まれて置かれていたんです。たぶん、この近所で野良猫が死んで憐れに思った住民が、寺ならば供養してもらえると考えたのでしょう。その直後、今度は境内地で、スコップで穴を掘っている人を目撃しました。すると、『飼っていたカメが死んだから埋めているのです』という。私はその場でお経を唱え、一緒に供養しました。これが、うちの寺での最初のペット供養になりました」
感応寺のプラスペット墓(撮影/鵜飼秀徳)
考えれば、東京では動物の死後の処理は結構、厄介だ。法的には、動物の死体は一般廃棄物である。行政に連絡すれば、「ゴミ」として、引き取ってはくれる。しかし、それでは、動物があまりにも不憫だ。
都会の寺では、死後、彷徨える動物たちの埋葬や供養に存在意義を見出すことができるのではないか。そう成田さんは考えたのだ。
成田さんは境内にペットのための室内納骨堂や永代供養塔も立て、ペット用の火葬炉も設けた。さらに、ユニークなのはペットと人間とが一緒に入れる墓を開発したことである。
「愛犬や愛猫と一緒に墓に入りたい」
という飼い主のニーズは、最近、どこの寺でも増えてきている。
しかし、多くの寺院や公共霊園では人間とペットの遺骨を一緒に埋葬することを認めていない。現在、ペットとの“死後の同居”を禁止する明確な法律はないが、人骨と合葬する際、「国民の宗教感情に適合」しているかが問題なのだ(「墓地、埋葬等に関する法律」第1条)。
人間の墓の中に“副葬品”として動物の遺骨を同居させることへの抵抗感を抱く人は少なくない。
そこで、成田さんはこうしたトラブルを回避できる人間とペットの合葬墓を開発した。同じ区画に人間用とペット用のカロートを分けて納骨できるデザインの墓(プラスペット墓)を販売したのだ。感応寺で契約されたプラスペット墓は2018年6月現在で24基に上る。
ペットはより手厚く見送る傾向がある
成田さんがペット供養を開始して13年。この間に、感応寺を取り巻くペット供養環境はどう変化してきたのか。成田さんは、当初は一番リーズナブルな葬儀プランが依頼者のほとんどを占めていたが、最近では高めのプランに人気が集まってきている、と説明する。
「人間の葬式はどんどん簡略化される傾向にありますが、ペットはより手厚く見送る傾向が見られます」
ペット供養で導師をつとめる成田さん(撮影/鵜飼秀徳)
過去には、人間の葬式に置き換えても立派、と思えるような犬の盛大な葬式もあったという。きちんと喪主をたて、ペットオーナーでつくるコミュニティ仲間や友達だった犬らが多数参列した。参列者は全員喪服で、香典も受け取る。香典袋には、友達の犬の名前が差し出し主として書かれていた。喪主は香典返しを用意する徹底ぶりだった。
1度の葬式だけで供養を終えるのではなく、前日に通夜をしたり、葬儀の後の初七日、四十九日や百か日、一周忌、三回忌などの法要をするケースも増えてきたという。都会における人間の葬式では、年忌法要なども簡略化される一方だが、ペット供養の世界はむしろ逆にふっているようだ。