先月の県議会で、「県動物愛護管理条例」の罰則強化が成立したことから、「野犬を薬物で駆除するのでは」との懸念が一部で広まっている。同条例の改正により、犬の放し飼いをした飼い主の罰金は「5万円以下」から「30万円以下」に強化されるが、野犬を駆除するために県が置いた薬物を撤去、移動した場合も同様の厳罰化が図られたためだ。過去20年以上、県が薬物駆除をした記録はなく、県も「薬物使用を促進する意図はない」としている。ただ、条例改正に賛成した自民党からも「説明不足気味で、改正は性急だった」と批判が出ている。
▽項目一律
「野犬を排除するために薬物を使用することに対し、動物愛護団体などから削除を求める声が強く出されている」。9月27日の県議会第3回定例会最終日、共産議員が反対討論で改正に異を唱えた。議員は2016年12月に施行された「県犬猫殺処分ゼロを目指す条例」を示し、「整合性をどう取るのか」と疑問を投げ掛けた。
これに先立つ県議会保健福祉医療委員会でもこの問題が議論された。自民のベテラン県議は議論の最後に「条例でも縛っている。軽々しく(薬物駆除を)使わないということだ」とくぎを刺した。
懸念を生んだのは、罰則を一律に強化したためだった。県が条例改正を図ったのは、犬の適正飼育徹底へ「罰則を全国で最も厳しい水準に引き上げ、殺処分数を減らす」(県生活衛生課)のが目的だった。ところが、放し飼いを禁ずる「係留義務」の違反と合わせ、条例の項目を一律に罰則強化したことから、「薬物駆除を進めるのでは」と勘ぐる向きが出た。
▽3年前の事例
「薬物駆除強化説」が浮上したのは別の理由もあった。05年に鳥インフルエンザが発生した常総市内の養鶏場跡付近で15年、野犬の繁殖が判明し数十匹が群れをなしていた。県は薬物駆除を検討、手続きに従い住民説明会を開いたが、動物愛護団体などの反発もあり実行に至らなかった。野犬は県や市、愛護団体などが作業部会を立ち上げ、時間をかけて保護したという。3年前に薬物駆除に着手しようとした事例が、疑念を深める一因となった。
かつては県内でも薬物駆除が行われていた。当時を知る関係者によると、以前は野犬にかまれる事故が県内外で多発し、1974年の茨城国体など大イベント前には駆除用の毒入り団子がまかれた。子どもがかまれる事故も今より多く、1985年のつくば科学万博の頃まで続いたという。
県はこの20年以上、薬物駆除の実績がゼロ。仮に着手するとしても、野犬が(1)人に危害を加えたか危害の恐れがある(2)捕獲困難-の条件を満たした上で、近隣住民に周知する必要があると愛護条例で定める。
動物愛護関係者は「駆除条項を削除すればいい。罰則を一律上げたのも納得いかない」と憤りをみせる。
▽意見聴取
これに対し県生活衛生課は、駆除実行のハードルが非常に高いことに加え、捕獲数減少で駆除行為そのものが不要になりつつあると説明する。その上で、狂犬病予防法にも駆除の規定があるものの、「想定外の感染症流行や緊急事態に備える必要がある」として、条項削除はしない考えだ。
複数の県議は、県が薬物駆除の条項をそれほど重視しないまま改正に臨んだのでは、と推察する。
問題に詳しい自民県議は、自民主導で議員提案し全会派の賛成で成立した殺処分ゼロ条例を例に挙げ、「愛護団体からも意見聴取し、丁寧な議論を重ねて条例をつくり上げた。今回の改正も県は県民意見の聴取手続きを取るべきだった。議論が深まらなかったのは残念」と振り返る。「もっと時間があれば罰金額に差を設ける議論もできた」としつつ、「罰則強化を『毒殺推進』とするのは論理の飛躍がある」とも指摘した。
改正条例は県議会での成立を受け、来年4月1日に施行される。
(黒崎哲夫)