Yahoo! JAPAN ヒット書籍がいくつも登場し、密かな「絶滅ブーム」となった2018年。生きている動物にはない、絶滅動物ならではの魅力とは、いったい何なのでしょうか? その謎に迫るべく、急遽ふたりのベストセラー著者の対談企画が実現! 「絶滅動物にはロマンがある」と語る、その理由とは!?
全3回にわたってお届けする特別企画。第1回では「ブームの理由」について語りましたが、第2回では「人間が滅ぼした動物たち」といった倫理的なテーマに迫ります!(文/山本奈緒子)
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● “謎”が多いから、絶滅動物にはロマンがある
――おふたりにとって、生きている動物にはない絶滅動物の魅力って何なのでしょう?
ぬまがさワタリさん(以下、ぬまがさ) やはり、「分からない」というところが一番の魅力です。私の本にはイラストを載せていますが、実際は色が分かっていないものがほとんどですし、骨格という根本的な部分ですら研究者の間では意見が分かれている。太古のものだけに想像するしかない部分も多いところが、逆にロマンがあって面白いなあと思います。
丸山貴史さん(以下、丸山) 比較的新しい新生代の生物でさえ、分からないことだらけですもんね。17世紀に絶滅した有名なドードーですら、剥製が1体も残ってない。
ぬまがさ そうそう、残ってるのがスケッチだけなんですよね。
丸山 だから僕が子どもの頃に見た図鑑のドードーなんて、『不思議の国のアリス』の挿絵そのまんまみたいなのが多かった(笑)。最近のドードーは、それに比べると少しほっそりしてきましたが。
ぬまがさ だからこそ「残す」ということは本当に大事なんだなあと、あらためて思いますよね。ドードーだってスケッチを残した人がいなかったら、存在すら知られていなかったかもしれない。単なる好奇心で描いたのかもしれないけど、それが私たちにとってものすごく重要な手がかりとなっている。私が描いている本も、いつかどこかで何かの手がかりになるかもしれない。記録の重要性を教えてくれるのも、絶滅動物ならではですよね。
丸山 うん、「残す」って大切だけど、難しい。だって、ドードーってイギリスの博物館に剥製が残っていたのに、捨てられちゃったんですよ。「汚い」という理由で。
ぬまがさ おいドードーだぞ、何してくれんだ! と思いますよね。
● 多くの動物を「人間が滅ぼした」という現実
――絶滅動物を学ぶうえで、「人間が絶滅に追い込んだ」という話は必ず出てくるもの。そこにはどう向き合えばいいと思われますか?
丸山 僕が書いた『わけあって絶滅しました。』には、「人間のせいで絶滅した生物を面白おかしく取り上げるなんて……」という感想も寄せられています。でも、「こういう生物がいた」という事実を大勢の人に知ってもらうこと自体に価値があるんじゃないか、と思うんですよね。
ぬまがさ 地球上から滅んでしまったときを「1回目の死」だとすると、それが本当に忘れ去られてしまったときが「2回目の死」だとも考えられる。だからこそ2回目の死は避けたい。絶滅動物を紹介する人たちは、そういう思いを持って活動していると思います。
丸山 そうなんですよ。『不思議の国のアリス』はフィクションですし、挿絵に描かれているドードーは正確な姿形ではないかもしれません。けれど、世界中で読まれる物語に登場したからこそ、ドードーは今も親しみのある生き物として記憶に残っているわけじゃないですか。僕としては、今の子どもたちに、「おい、お前たち人間はこんな悪いことをしたんだから反省しながら読むんだぞ」と説教したくはない。まずは絶滅動物そのものに興味を持って欲しい、そう考えているんです。
ぬまがさ 私の本『絶滅どうぶつ図鑑』のあとがきにも書いたのですが、たしかに他の生物を滅ぼすというのは人間の一つの「業」みたいなものでもあります。その反面、滅んだ生物のことを語り継いだり勉強したりするのもまた人間だけだと思うんです。読んでただ気が滅入るだけの1冊にはしたくなかったので、「人間どもよ」という忠告も入れつつ、絶滅動物を思い出させたり、あるいは「これからはどうすれば、絶滅を防げるのかな」といった感情を芽生えさせたりする、そんなことも大事かなあと意識しながら作らせてもらいました。
● 絶滅を防ぐことは、人間の「エゴ」なのか?
――ぬまがささんの本には、残された骨や毛皮からDNAを抽出して、もう一度絶滅した動物をつくり出す試みがされている、という話も紹介されていました。
ぬまがさ 最近『絶滅できない動物たち』(ダイヤモンド社)という本を読んだのですが、これが非常に面白かったんですよ。絶滅動物を保護したり蘇らせたりすることを絶対的な「善」と捉えがちですけど、本当にそうなのかな? という視点を示している。
丸山 生息環境がなくなってしまった動物を、復活させたり飼い殺しにしたりすることは果たして「保全」なのか? ってことですよね。そもそも、なぜ保護するべきなのかという根っこの部分には、色んな意見があって正解がないですし。
ぬまがさ そう、正解がない。少し話はズレるんですけど『寄生獣』(講談社)という、人間と、人間に寄生する寄生生物とが戦う漫画(岩明均作。映画化もされた)があって。その中に「(人間が)他の生き物を守るのは人間自身が寂しいからだ」という言葉が出てきます。漫画は、でもそれでいいんだ、という結論で終わるんですが、絶滅生物について考えると、それは人間のエゴかもしれない、と思う自分もいます。人間が寂しいからというだけの理由で蘇らせて、ちゃんとした生息環境もないのに生きながらえさせるのって傲慢な発想かもしれない……と、ちょっと揺れる部分も出てきたんですよね。
丸山 難しい問いですね。たとえば、ぬまがささんの『絶滅どうぶつ図鑑』にも紹介されていた、前半分がシマウマ、後ろ半分がウマのような毛色の絶滅生物「クアッガ」。これにそっくりな個体を、サバンナシマウマの交配を繰り返してつくり出すことに成功したという話があります。けれどそれは本当のクアッガではないし、見た目が近いものを作出する意味があるかというと、それは自己満足でしかない……。
ぬまがさ イヌからオオカミに似た犬種を作り出したようなもんですもんね。シベリアンハスキーを交配させて生まれたのがオオカミかって言ったら、それは当然違うわけで……。
丸山 もちろん人為絶滅は避けるべきですが、そもそも「何で絶滅させちゃいけないのか?」と問われると、みんななかなか答えが出せないんです。
ぬまがさ 根本的すぎて、詰まるんですよね。ある生物を保護することによって、被害を受ける生き物も出てくるわけですから。
● 「絶滅は悪か?」というテーマにどう向き合うか
――「なぜ絶滅させてはいけないのか?」という難しいテーマに、私たちはどう向き合っていけばいいのでしょうか?
丸山 たとえば、ある土地を開発したいとなったとき、希少生物がいるから守りましょうという声が出てきて、裁判をしたら開発側が負けて保全されることになった、というケースもたまにありますが、反対に、ほかにも生息地はあるので公共の利益を優先するという場合もあります。保護と利益というのはぶつかることも多いもので、より大勢の人の利益に絡むほうが通ってしまいがちです。大多数の人間にとって、1種の生き物が絶滅したところで影響はありませんからね。
ぬまがさ カブトガニは薬の材料にもなるから残しておいたほうが人間のためになる、なんてことを言う人もいますけど、本当にためになるかといったら、他にもやり方はいろいろあるでしょうからね。
丸山 そうそう、広大な干潟を守ってカブトガニを生き残らせるよりも、別のアプローチで薬を作ったほうが安上がりかもしれない。それにこの考えは、「人間の利益のために他の生物を確保する」というものですから、衷心から出たものではなく、生物に興味のない人を説得するためのこじつけですよね。
● 「絶滅」からは、多くを学べる
――とはいえ、「動物たちを守りたい」というのは、人間が持つ自然な気持ちでもあるように思います。
ぬまがさ 仮に人間に被害が及ぶことになったとしても、それでも守りたいよねというのが人間の特性というか、人間らしさではあると思います。
丸山 それも人間のエゴでしかないかもしれないですけどね。ただ、「生物のために」っていう視点で考えると、すべての種は関わり合って生きているので、一つの種が滅ぶと連鎖的にまわりの多くの種が滅んだりすることもある。だから、「地球のみなさんにあまり迷惑をかけるのは良くないので絶滅をさせないようにしましょう」という考え方には、ある程度妥当性はあると思います。
ぬまがさ それは多分にあり得ますね。たとえばある地域でハチが絶滅したとします。そんなハチが1種絶滅したぐらい影響ないだろうと思うかもしれませんが、実はそのハチだけがある特定の植物を受粉させている場合もある。そのためその植物も絶滅してしまい、さらにはその植物を食べていた動物も絶滅……と連鎖的に絶滅が広がっていく事態も起こりうるんですよね。
丸山 めちゃくちゃ固いカリヴァリアの木の実は、ドードーが砂肝でその実をすり潰して消化することで、糞から種子を発芽させていたそうです。そのため、ドードーが絶滅してからカリヴァリアの若木は激減して、今では絶滅の危機にあると言われていますね。
ぬまがさ 絶滅って基本的には気が滅入るような出来事なんですけど、生物が環境の中でどういう役割を果たしているのか考える良い題材でもありますよね。ある生物がいなくなったとき、どういうことが起こるのか……。絶滅は、一番分かりやすく結果が出ますから。ただ単に「人が滅ぼしたんだね、良くないね」で終わりがちですけど、生物の世界はものすごく繊細なバランスで成り立っている奥深い世界なんだ、ということを理解する入り口でもある。罪悪感を抱くだけじゃなくて、学びの良い教材にもなるものだと思います。
第3弾は12月29日(土)公開予定。お楽しみに!
丸山貴史/ぬまがさワタリ
posted by しっぽ@にゅうす at 01:48
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