「猫に罪はない。殺処分しないので安心して」。名古屋市北区の市営住宅で、猫の多頭飼育崩壊が問題となった昨年六月。河村たかし市長は報道陣に、市動物愛護センターに引き取られた猫たちを殺処分しないと約束した。
「発言を勘違いした人が多くて…」。センターの担当者によると、これ以降、引き取りの相談が相次いだ。「猫を引き取ってもらっても殺処分されないのか」「うちも猫を飼いすぎていて…」。発言との因果関係は明確ではないが、猫の引き取り件数が増え、殺処分頭数が増加。慌てた市長は昨年十二月の記者会見で「天寿を全うするまで、しっかりと飼っていただきたい」と呼び掛けた。
市はこれを機に、猫の殺処分ゼロ対策に本腰を入れる。二〇一八年度は約二千万円だった「人とペットとの共生事業」の予算を、一九年度は約一億二千七百万円と大幅に増額。「ドリームボックス」と呼ばれる殺処分機を撤去し、現在、犬と猫合わせて最大百四十匹の収容スペースを拡張、猫をさらに四百匹収容できる施設を新設する。
担当者は「病気や、どうしてもかみ癖が直らないなど殺処分もやむなしのケースはあるが、収容スペース不足を理由とした殺処分は避けたい」と現状を改善する考えだ。
新たに、獣医師やボランティアなど外部関係者の協力を得て、殺処分を選択せざるを得ない基準などを定める審査会を設置。六月から、有識者でつくる対策検討会を発足させ、やむを得ない場合を除き殺処分ゼロを目指す長期計画づくりに着手する。
名古屋市北区の市営住宅から保護された猫=2018年7月、同市動物愛護センターで
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殺処分される猫は、一三年の動物愛護法改正や、譲渡ボランティアの増加などで減少傾向だ。ボランティアへの支援物資などにあてる費用を賄うために呼び掛けている寄付金も年々右肩上がりで、一九年度は約三千万円を計上。空前の猫ブームで、市民の注目を集めやすいことから、市は「できない目標ではない」とみている。
環境省によると、殺処分ゼロを掲げる自治体は、東京都など四十二自治体。しかし、アニマル・リテラシー総研(東京)の山崎恵子代表理事は、数値目標だけが独り歩きすることを懸念し、警鐘を鳴らす。「目標達成のため、ボランティアに大量の猫を譲渡し、崩壊状態になる団体も出ている。『殺処分ゼロ』は聞こえはいいが、数値目標ありきではボランティアや職員が追い込まれてしまう」
<名古屋市の動物愛護法違反事件> 名古屋市北区の市営アパートの一室で、住人の姉妹が猫約40匹を、排せつ物などが散乱した不衛生な環境で飼育。2017年5月ごろから近所の苦情が相次ぎ、市が退去を求めて18年1月に提訴し、姉妹は6月に強制退去。県警は、劣悪な環境での飼育が動物虐待に当たるとし、9月に動物愛護法違反容疑で書類送検。名古屋簡裁が姉妹にそれぞれ罰金10万円の略式命令を出した。保護された猫は市動物愛護センターに引き取られた。県警などによると「面倒になった」と掃除をせず、猫に避妊・去勢手術を施さなかったという。