ネタりか闘鶏に使われたとみられる傷ついた鶏が、沖縄県内の農道や畑、ゴミ捨て場などに放置されるという事件が頻発している。そのことに気づいた一人の女性が、鶏たちを保護・飼育し続けていた――。
◆傷ついた鶏を、生きたまま放置。闇闘鶏で動物虐待!?
沖縄県南部の簡素なプレハブで、数十羽の鶏とともにひとり暮らしている女性がいる。ダイビングインストラクター、水中カメラマンの本田京子さん(41歳)。北海道の出身で、沖縄の海にあこがれて25年前に沖縄へ移住した。
「今日も4羽、サトウキビ畑に捨てられていました」
本田さんは2017年3月、闘鶏で傷ついたと思われる鶏を名護岳(沖縄本島北部)で発見してから、延べ約140羽の鶏を保護してきた。
「びっくりしました。頭に毛はなく大きな穴が開き、片目を失った鶏が路上に瀕死の状態で横たわっていたんです。周囲の人に聞くと、1週間前から捨てられていたとか。すぐに、鶏を診察できる獣医さんのところに運びました。
それ以来、ボランティアの方に来ていただける日もありますが、基本は一人での作業。朝はすべての鶏を外のケージに移し、夜は安全のためプレハブの中に戻します。作業は深夜になることも。エサ代や病院の治療費がかなりかかりますが、今は仕事もできないので貯金を取り崩しながらやっています」
◆無抵抗のままいたぶられたと思われる鶏も
闘鶏とは、古代から世界的に行われている鶏(多くの場合は軍鶏〈しゃも〉)を闘わせる娯楽。日本には奈良時代に唐から伝わったといわれ、賭博行為を伴いながら全国の農村で盛んに行われていた。
沖縄出身で闘鶏の現場を知っているというA氏は「自分はやっていないが」(本当のところはわからないが)と前置きしたうえで、沖縄での闘鶏について話してくれた。
「闘鶏は、今も沖縄各地で行われている。賭け麻雀や賭けゴルフのような感覚で。勝敗にカネを賭けていることが多く、スケジュールや場所は仲間内だけでこっそり回している」
本田さんが保護した鶏を診察している獣医師は、次のように話す。
「多くの鶏は、急所の両目あるいは片目がつぶれている状態でした。顔面、とさか、頭部に重度の外傷を負い、頭蓋骨が露出しているものも珍しくはありませんでした。このほか、全身に多数の外傷があり、治療を受けずに著しく痩せて衰弱した揚げ句捨てられた可能性が高い鶏も多かった。
頭部の外傷を不衛生な糸で縫われていたケースもありました。あらゆる疾患が放置されているようで、トリサシダニや羽毛ジラミなどが寄生している鶏も多数見られました。傷ついた軍鶏をケアしないことや遺棄することは、明白な動物愛護法違反です」
特徴的なのは、クチバシや蹴爪(けづめ)を根元から切断されている鶏が多かったということだ。
「クチバシや蹴爪を切るのは、練習用の鶏である場合も。攻撃力を奪った無抵抗の鶏をいたぶることで、闘鶏に出場する鶏に自信をつけさせる。または本番の試合でも、無抵抗の相手がダウンするまでの時間を賭けるというやり方もあると聞く」とA氏は話す。
◆闘鶏に薬物が使われ、肉も卵も食べられない!?
さらに本田さんは「闘鶏は日曜日に行われているようで、鶏が遺棄されるのは月・火・水曜日が特に多いです。周辺の人たちに聞くと、『闘鶏の鶏』ということで誰も拾わず、多くは野良犬に食べられたり、そのまま病死・餓死したりするんだそうです」と語る。
「名古屋の軍鶏鍋の店から『引き取りたい』との話がありましたが、お断りしました。食用になるならもう少し大事に扱うのかと思うのですが、実は闘鶏の鶏にはいろいろな薬が投入されていて、肉も卵も食べられないというんです」
A氏は、次のように説明する。
「カネがかかっていて真剣だから、攻撃的になる興奮剤、止血や痛み止め、筋肉増強など、さまざまな用途で薬を使っているようだが、どんな薬を使っているかは飼い主にしかわからない。傷ついて弱ったら捨てるしかない」
本田さんがFacebookやブログを通じてこの実態を伝えると、餌の提供や鶏の引き取りなどを申し出る協力者が全国から集まったという。
「それでだいぶ助かりました。でも、捨てられる鶏の数は一向に減りません。今後もずっと支援していただけるわけではないでしょうし……」
それと同時に、嫌がらせと思われる行為も頻発している。
「わざとプレハブや玄関の前に、傷ついたり死んだりした鶏を置いていくんです。あるときは、ウチで保護していた鶏の一羽を、ダニがひどかったので外に出しておいたところ、何者かに首を切られていました。本当にかわいそうなことをしてしまいました」(本田さん)
今回の取材では、多くの関係者が口をつぐみ実名を隠した。しかし、本田さんは顔写真も実名も公表しながら活動している。
「そのほうが自分の身が安心かなって思っているんです。私に何かあったらすぐわかりますから」
◆県の自然保護課は「証拠がなく指導はできない」
現在、闘鶏は英国や米国などでは原則禁止されているが、日本で闘鶏を禁止している自治体は5都道県(北海道、東京、神奈川、石川、福井)のみ。本田さんは動物愛護団体などの協力を受けて、沖縄県に闘鶏禁止の条例制定を要請している。
「沖縄県警も、鶏の遺棄や虐待については動物愛護法違反として捜査を進めていると言っていますが、一向に犯人が捕まることはありません。県の自然保護課にもかけあったところ、傷ついた鶏の遺棄は『虐待』であることは認めましたが、『薬物を使用している証拠もないし、誰がやっているかわからないので指導はできない』とのことでした」
一方、「闘鶏は地域に根ざした伝統文化だから、なくならない」とA氏は断言する。
「地味に目立たないようにやっていれば、おとがめはない。警察や議員に言っても取り締まるわけがない。そいつらだって関わっているんだから」
これに対して、本田さんはこう語る。
「食べるためではなく人間の娯楽のために、生き物の命を犠牲にすること自体がおかしいと思います。いくら伝統文化といえども、時代の流れによって変わっていくべきではないのでしょうか」
◆公開で行っている闘鶏関係者の困惑
一方、闘鶏を地元の伝統文化として公開の場で行っている地域もある。ある地域で闘鶏用の軍鶏を飼育しているB氏は「沖縄の件に関連してこちらにも批判がきていて、困惑しています」と、匿名を条件にこう語った。
「ウチは管理された公開の場所で行っていて、お金を賭けることもありません。軍鶏も栄養のあるエサを与えて、愛情をこめて大切に育てています。試合の際はクチバシにテーピングをしたり、足先の鋭い部分をカットしたりして、致命傷を与えないようにしている。ケガをした後のケアもきっちり行っています。沖縄で隠れて行われているケースとはまったく違います。
この地域の闘鶏には長い歴史があって、いまも多くの地元の人がかかわっている。それを理解しようとせずにいきなり外部から『中止しろ、禁止しろ』と言われたら、よけいに反発が大きくなってしまいます。正直言って、闘鶏の即禁止を求める愛護団体の方々とは、平行線になってなかなか話し合いにはなりません」
世界を見てみると、牛を殺さない闘牛に変わっていった地域もあり、スペインのバルセロナでは2012年に闘牛が禁止されている。また、家畜であっても飼育期間はなるべく苦痛を与えないように扱うという「家畜福祉」といった考えが欧米を中心に広まってきている。
伝統文化といえども、時代とともに変わってきている部分もある。「そもそも、動物を闘わせること自体が残酷」という意見も、今後は無視できなくなってくるだろう。
「闘鶏の伝統を守りたい」と考える側としても、まずは改善可能な点を探っていくことも必要になるのではないだろうか。
※週刊SPA!4月2日発売号「沖縄闇闘鶏で動物虐待」より
文/週刊SPA!闘鶏取材班
posted by しっぽ@にゅうす at 08:38
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