ペットの犬や猫が繁殖し過ぎて世話ができなくなる「多頭飼育崩壊」の対応に自治体が苦慮している。持病の悪化や家族の認知症発症などをきっかけに状況が悪化し、担当者が気付いた時には室内がふん尿だらけになっているケースも。動物虐待の側面もある上、飼い主の生活立て直しには福祉専門職のアドバイスが不可欠で、政府や自治体は具体策の検討に乗り出した。
「多頭飼育崩壊」した家から保護された猫たち。環境が整った清潔な部屋で暮らしながら、新しい飼い主を待っている(仙台市)=共同
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「多頭飼育崩壊」した家から保護された猫たち。環境が整った清潔な部屋で暮らしながら、新しい飼い主を待っている(仙台市)=共同
「あっという間に子猫が殖えてしまった。責任があるから、生活が苦しくても飼い続けるしかなかった」。仙台市に住む主婦(73)が猫を飼い始めたのは、東日本大震災後の2011年。近所で生まれた5匹の子猫に、夫(79)が餌をあげたのがきっかけだった。年金生活で猫に避妊・去勢手術をする余裕はなく、わずか半年で12匹に。その後も繁殖は続き、常に十数匹を世話する状態に陥った。
自らも持病で入退院を繰り返しながら、認知症状で徘徊(はいかい)が始まった夫と暮らすうち、室内はふん尿が散乱した。近所からの苦情を受け、仙台市の担当者が昨夏、女性に避妊・去勢手術を促し「殺処分してもいいなら引き取る」と提案したが女性は拒否。ボランティアが引き取ることになった。
市は「所有権は飼い主にある。引き取りを拒まれると、それ以上対策が取りにくい」と難しさを明かす。
多頭飼育崩壊に至る経過はさまざまだが、高齢化が進み、飼い主のライフステージの変化に起因するケースが目立つ。病気の発症や失業、家族の死亡などで社会的孤立を深め、動物に依存する例が典型的。別の自治体の担当者は「単なる動物の問題と捉えていては解決しない」と言う。
長野市では、多頭飼育している高齢者の自宅を訪問する際、動物愛護の担当者のほか、ケアマネジャーなど福祉職が同行している。
「市で引き取る際には殺処分する場合もある」と伝えると、飼い主の多くは「かわいそう」と身構える。そこで「生活を立て直すためにどうすべきか」との視点から説得するのが福祉職の役目。「動物と福祉の部署が情報共有し、早期対応を心掛けている」
政府も対策の検討を始めた。動物愛護法を所管する環境省が、介護や福祉を担当する厚生労働省と連携し、本年度中に都道府県と政令市などに実態調査を実施。21年度中に多頭飼育崩壊を防止する方法や対応策を盛り込んだガイドラインをまとめる方針だ。
動物虐待の防止に取り組む日本動物福祉協会(東京)の町屋奈獣医師によると、例えば英国では裁判所が多頭飼育崩壊などで虐待と認定した場合、飼育禁止を命じることができるといい「日本も同様に飼い主を規制できるようにする法整備が必要」と訴える。
〔共同〕