Yahoo! JAPAN高校生のとき、講談社児童文学賞佳作に入選した『佐藤さん』でデビューした小説家の片川優子さん。学生生活と作家生活を両立させながら、瑞々しい小説を書き続けてきた。近作の『ぼくとニケ』という小説は、突然登校拒否になった幼馴染の女の子が主人公の家に捨て猫を連れてくるところから始まる感動の物語だが、猫を飼うということがどういうことかがとてもリアルに具体的に描かれている。
【写真】可愛いペットたち。肥満のペット、わかりますか?
それもそのはず、実は片川さんは現在、小説を書きながら獣医師としても活躍しているのだ。
その片川さんの、今までの獣医師経験も踏まえた新連載「ペットと生きるために大切なこと」がスタートする。ペットとお互いに幸せに生きていくためにどうしたらよいかを考えるコラムだ。
第1回は意外と危険がすぐ近くにある「ペットの肥満」について。
実は飼い主がペットの寿命を縮めてる? 気づかない「ペットの肥満」
大切なペットだからこそ、一緒にできるだけ長く楽しく生きていきたい Photo by iStock
肥満は病気?
本格的な夏到来を前に、ダイエットに励んでいる人も多いかもしれない。薄着になると、二の腕やウエストラインがどうしたって気になるものだ。
では、愛犬や愛猫の体型はどうだろうか。ぽっちゃりしている犬や猫は、たしかにかわいい。だがそのぽっちゃりが、その子たちの生活の質を下げ、寿命を縮めているとしたら、かわいいと言っていられるだろうか――肥満の犬の寿命は、標準体重の犬の寿命より8ヵ月短いという研究結果がある(引用1)。たった8ヵ月と思うかもしれないが、犬は人間の約4倍の速度で年をとると言われているので、人間だと約2年半相当、寿命が縮んでいる計算になる。
にも関わらず、アメリカでは4頭に1頭の飼い猫・飼い犬が「肥満」または「太り気味」と言われており、日本の犬でもほぼ同様の調査結果が報じられている(引用2)。
肥満は、犬や猫においても、関節炎や糖尿病をはじめとした、さまざまな病気を引き起こす。このコラムでは、見逃しがちなペットの肥満の判定方法や解決策について紹介していく。
実は飼い主がペットの寿命を縮めてる? 気づかない「ペットの肥満」
太っていることで足が痛くなり、運動ができなくて…という悪循環を起こしてしまうことも Photo by iStock
うちの子って、太ってる?
意外と、自分のペットが太っている自覚がないオーナーは多い。
犬では、トイプードルやミニチュアシュナウザーのように毛が伸び続け、定期的にトリミングをする必要がある犬種は、トリマーからの指摘で肥満に気付きやすい。
一方、チワワやポメラニアンのように、毛がふわふわしていてトリミングに行かなくても飼育が可能な犬種は、肥満に気付きにくい。特にチワワは、完全室内飼育で散歩も行かないオーナーも多く、さらには犬種的にも太りやすいのだが、ロングコートの場合は毛皮で体格が分かりにくく、気がつくと肥満が進行していることが多い。
猫の場合、日本猫は短毛なので、体型の変化がわかりやすいが、長毛種は体型の変化に気づきにくい。また抱っこが嫌いな子の場合、体を触る頻度が低くなり、気が付いた時には肥満になっていることもある。
肥満チェックの方法
ペットが肥満かどうかを判断するにはどうしたらよいだろうか。
最適な体重を15%超えると肥満だと言われるが、最適な体重がわからない場合も多いだろう。目指すべき体重を知るには、まずは動物病院に行って適性体重を見立ててもらうのが良いかもしれない。
あとは、1歳のときの体重がわかれば、それを目標にするという方法もある。大体の犬や猫では、生後8ヵ月くらいまでには骨の成長が止まり、1歳時には標準体型であることが多い。犬や猫の1歳は、人間でいうところの18歳くらいに相当するので、「あの頃の体型をもう一度」といったところだろうか。
ちなみに大型猫種であるノルウェージャンフォレストキャットやメインクーンなどは、2年ほどかけてゆっくりと成長する。上記の体重目標は当てはまらないので、注意が必要だ。
そのほかに、家でもできる簡単な方法がある。ボディ・コンディション・スコアと呼ばれ、BCSと略される評価方法だ。簡単に測り方を説明すると、背中から胴の一番太いところを両手で触り、肋骨が容易に触ることができれば標準体型、脂肪ごしに肋骨がわかれば太り気味、脂肪が厚く、肋骨を触るのが難しければ肥満だ。こちらのコラムで方法をわかりやすく説明しているのでご紹介しよう。
https://www.royalcanin.co.jp/dictionary/column/20150220実は飼い主がペットの寿命を縮めてる? 気づかない「ペットの肥満」
特に何か買わなくても、家にあるもので遊んであげるだけで運動になる Photo by iStock
「うちの子が肥満」だとわかったら
では、上のチェックをしてみて、もし愛犬や愛猫が肥満もしくは太り気味だとわかったら、どうすればよいだろうか。人間の場合は、適度な運動と食事管理が王道だろう。ペットでもそれは同じだ。
ただ適度な運動と言っても、ペットの場合なかなか難しい。しかし、家の中でも十分運動量を増やすことは可能だ。小型犬なら家の中でボール遊びをしてもいいし、猫ならおもちゃを使って遊ぶだけでかなりの運動になる。
ただ、気をつけて欲しいのは、すでにかなりの肥満で関節炎などがある場合だ。急に無理な運動をすると関節炎が悪化することもあるので、注意が必要だ。また、床が滑りやすい素材だと、滑って股関節や膝をいためてしまう可能性もある。その場合は廊下など家の一部分だけでも良いので、クッション性のあるマットを敷く、などの工夫が必要だろう。100円ショップなどで売っているジョイントマットでも十分滑り止め、そして階下への防音対策になる。ただしマットをかじって食べてしまうこともあるので、初めて使う場合は注意してほしい。
猫の場合も、「猫だから高いところからジャンプしても大丈夫」と、無理にジャンプさせるのは危険だ。高齢猫の7割は関節炎に罹患していると言われている。肥満気味の猫ならなおさらだ。関節が痛くてソファにも登れない猫もいるので、その場合は足場を作って登りやすくしてあげるのも手だ。自力で登れなくなっても、猫は高いところが好きなもの。うまく足場を作って段差を減らせば、自分で積極的に登り降りするようになるかもしれない。自発的な運動を促すのもダイエットには効果的だ。
食べたがるペット、どうしたらいい?
次に、食事管理。とはいえ、無理な食事制限は危険なので絶対にやめてほしい。特に肥満の猫では、数日絶食するだけで脂肪肝になってしまい、最悪の場合死に至ることがある。
ではどのように食事管理をしていけば良いのだろうか。
まず有効なのは、目標体重に合わせた適正なフードの量を、毎回測って与えることだ。これは意外に効果が高い。
はじめのうちは、面倒でもきちんとはかりで測るのがおすすめだ。適当に目分量をあげている方も、カップで毎回測っている方も、はかりの使用をおすすめしたい。
というのも、家族でペットを飼っている場合、エサをあげるのが毎回同じ人ではないことがあるからだ。同じ「カップ一杯」でも、お父さんとお母さんでは量が違うことがよくある。毎回一定量あげるためにも、ぜひ測ってみてほしい。毎回測るのが大変なら、プラスチックの保存容器を買ってきて、あらかじめ数日分の食事を一食分ずつまとめて小分けにしておく、という手もある。
次に効果的なのは、おやつをやめること。楽しみを奪ってしまうようでかわいそうではあるのだが、少し考えてみてほしい。
例えば5キロの動物の場合、50キロの人間と比べると、1/10の大きさしかない。私たち人間から見たら「ほんのちょっと」に思えるビスケット1枚やジャーキーひとかけらでも、彼らにとってみたらハンバーガー1個分くらいのカロリーに相当するのだ。
完全におやつをやめられないなら、先ほど述べた小分けにしたフードから何粒かをおやつとしてあげると良いだろう。普段のフードには興味がなく、おやつ代わりにならないという場合は、普段のフードの量をおやつ分だけ減らすと良い。その際も、カロリー計算を行い、なるべく正確に。
最後に、ダイエットフードに切り替える、というのもおすすめだ。最近のダイエットフードはかなり改良されており、嗜好性も高い。どんなフードをどのくらい食べれば良いかわからない場合は動物病院に行くか、ペットフード売り場で店員に相談してみると良いだろう。
ただし、突然フードを完全に切り替えると、好みがはっきりしている子では食べないことも多い。先に述べたとおり、肥満猫の絶食は命の危険があるため、新しいフードを全く食べなくても「お腹が減れば食べるだろう」と数日放っておく、という荒療治は絶対にやめてほしい。
おすすめは、一番小さいサイズのフードを買い、1週間から2週間かけて徐々に切り替えていく方法だ。お皿をもう一枚用意し、今まで使っていたお皿に新しいフードを入れて今までの場所に、新しいお皿に既存のフードを入れて少し離れた場所に置き、新しいフードの量の割合を少しずつ増やしていくとスムーズに切り替えられることが多い。
特に猫では、二種類のフードを混ぜてしまうと食べないことも多いので、上記の方法でゆっくり新しいフードに慣らしていってほしい。「うちの子は好みがうるさいから……」とあきらめず、ぜひ一度試してみてはいかがだろうか。
ダイエットを成功させるコツ
最後に、ダイエットを成功させるコツをお伝えしたい。それは焦らずゆっくり、無理のない計画を立てること。愛犬や愛猫が太りすぎだとわかったからといって、すぐに「今5キロだから、1ヵ月で1キロ減量しよう!」と目標を立てることは、50キロの人間が1ヵ月で10キロ痩せようとすることに等しい。たった50グラムでもそれは彼らにとっては立派な減量なのだ。半年や一年かけて、ゆっくりと標準体型を目指すのが良いだろう。
家で体重を計るには、ペットを抱っこして体重計に乗り、その後自分だけで体重を測って引くのが簡単だ。もっと正確に測りたい場合は、動物病院に行って測ってもらっても良い。最近では、ペットのダイエットを一緒に手伝ってくれる病院もある。そういった病院を見つけて、獣医師の指導を受けながら一緒に減量していくのも一つの手だろう。
ちなみに、犬猫の満腹中枢は非常に鈍いと言われている。たとえ十分量のエサを食べていたとしても、おやつを欲しがるのは、「お腹いっぱい」という感覚が鈍いからなのだ。我が家の愛犬も以前、間違えて2回夕飯を与えてしまったことがあるが、何食わぬ顔をしてぺろっと食べきっていた。
「お腹が減ってかわいそう」とついごはんやおやつをあげてしまう気持ちもわかるが、彼らには「お腹いっぱいで満足」という感覚はない。それよりも、適度な分量のフードをあげ、代わりにボールなどで遊ぶ時間を増やし、少しでも長生きしてもらうほうが、お互い幸せなのではないだろうか。
参考文献:
(引用1)Effects of diet restriction on life span and age-related changes in dogs.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11991408 (引用2)日本における飼育犬の早期肥満半纏基準の策定 森伸子・山本一郎・新井敏郎
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpan/14/Suppl/14_Suppl_Suppl_79/_pdf片川 優子