不妊、去勢手術し住民世話 野良子猫、ふん尿被害減
猫のご近所トラブルに悩む高知市の町内会組織が「地域猫」という活動を始めている。野良猫に餌を与える人を敵視して孤立させるのではなく、味方に取り込み、一緒に不妊去勢手術やふん尿の始末などをするという。
高知市南部の住宅街。昨春、町内会役員の男性(60)が困っていた。隣人が猫の菌に対する免疫がなくなる病気にかかったが、近所に5、6匹の野良猫がいて、ふん尿被害がひどい。医者からは「ふんから菌が出るので近所の猫を処理しないと退院させられない。命に関わる」と告げられたという。
男性が市保健所に「猫を捕まえて」と訴えると、市は「大けがや死にかけている猫以外は引き取れない」。犬は狂犬病予防法などで保護収容できるが、猫は法令がなく捕獲できないという。市担当者は現場を訪ねた上で「地域猫やってみませんか」と提案した。
市が推す地域猫とは―。町内会や自治会が同意して市に登録した住民団体が野良猫を捕獲して不妊去勢手術を受けさせ、目印の切り込みを耳に入れて「地域猫」として登録。野良猫の増加を防ぐとともに、ふん尿や餌やりの管理ルールを決め、環境美化を図る。市は昨年度から団体に手術費などの補助(上限12万円)を始めた。
男性は勉強会に通い、地区総会で「地域猫」を提案。「嫌猫」「愛猫」の板挟みになっていた他の役員も「文句ばかり言い合っても猫は減らない。やってみよう」と賛同し、昨年12月から「○○地区 地域猫の会」として活動を始めた。
まず助言役の「高知地域猫の会」=沢田佳子代表(47)=と住民が地区を回り、猫の生息状況やふん尿被害を確認しながら、餌をやる人に声を掛けて歩いた。
アパート前に猫が集う家。沢田代表が「こんにちは〜、猫のボランティアです」と優しく声をかけると、中年男性がこわばった顔で引き戸を開ける。沢田代表は「猫ちゃん、お世話してくれゆうがですね。ありがとうございます」と切り出し、「何匹くらい来てますか? すぐ増えて大変でしょ。不妊去勢しませんか?」と尋ねる。
「そんな金はない」と男性。そこで沢田代表らが「地域猫という活動をしてて手術の補助が出ます」「ルールを守って餌やふん尿の管理をし、一緒に近所をきれいにするのに協力してくれませんか」と言うと、男性の表情が変わった。「やりましょう」。男性がチームに加わった瞬間だ。
それまで男性は「猫が餓死するのはかわいそう」と餌を家の前に置き、そのせいで窓ガラスを割られたことがあったという。「嫌われてる」と思い、近所と疎遠だった。沢田代表らが訪ねた日も「猫で文句を言われる」と警戒したという。
だが、「協力してほしい」との言葉に男性の心が開いた。餌を置きっ放しにするのをやめ、近所のガレージに集まる猫のふん尿などの掃除を買って出た。1年ほどで15匹の野良猫を捕獲し、手術に協力。近所ではことし2月以来、子猫は生まれておらず、「よそからきた新入り3匹を手術すれば、ほぼ去勢不妊が終わる」という。
この地域猫の会は、地区に十数個のトイレを設置。近所で餌やりをしていた複数の高齢女性も加わり、ふん尿の始末や道端の草むしりなどを行う。
集会では「猫に椅子を引っかかれた」との苦情も出るが、猫嫌いの人から「餌やりの人が加わってくれんかったら、どこにどんな猫がおるかもわからんし、捕獲もできんかった」「去勢手術の後、おしっこの臭いが減った」との声も出る。
町内会長(70)は「互いの思いに耳を貸す雰囲気が生まれた。苦情がゼロになったわけではないが、住民のつながりが薄くなっていく中、猫を通していろんな人がつながり始めている」と話す。
「地域猫は動物愛護活動ではないし、猫好きが活動するものでもない」と活動を見守る沢田代表。「いろんな立場の人が対話を通じて住み心地の良い地域にするのが目的」と強調する。
同市内では6地区が市に登録して活動中。「新たに生まれる子猫がいなくなった」という地区では、住民同士でバザーを開いたりして手術費の足しにする取り組みも。対立しがちな「猫好き」と「猫嫌い」の歩み寄りが始まっている。(早崎康之)