Yahoo! JAPAN世は空前のペットブームだ。
朝も夜も犬を散歩させる人を見かけない日はないし、SNSやYouTubeには自慢のペットの写真や動画があふれている。矢野経済研究所の調査によると、日本のペット関連の市場規模は毎年拡大を続けており、2020年度は1兆5833億円になると見込まれている。
【図】アメリカのペット市場は急拡大している
アメリカでも事情は同じ、いや日本を上回る規模とスピードで拡大している。
アメリカペット製品協会(APPA:American Pet Products Association)はペット産業の総支出額についての調査を毎年行っており、直近の報告では2019年は753.8億ドル(約8兆2000億円)になると予測している。もちろん右肩上がりで増加中だ。
内訳はペットフードが4割強と最も多く、獣医への支出、グッズや市販の医薬品・サプリメントと続いている。
■ペット用品販売はネットにシフト
東洋経済では『米国会社四季報』を年2回刊行している。最新刊となる2019年秋冬号がこのほど発売となった。
今回は、この年々拡大するペット市場に関わる企業をいくつか紹介していきたい。
アメリカ国内でも、ペット用品は多くのスーパーなどで販売されているが、専業ということではPetcoとPetSmartの2社が抜きんでている。
Petcoは1994年に上場したが2000年に非公開に、2002年に再上場するも2006年には再度非公開企業となり、現在に至る。アメリカ国内とメキシコ、プエルトリコで1500以上の店舗を展開しているほか、獣医のアドバイスなどを含むペットケアサービスにも注力している。
PetSmartもアメリカ国内とカナダ、プエルトリコで1650店舗以上を展開し、また200以上の店内ペットホテルを運営している。同じく獣医ケアを含むヘルスケアサービスも手がけている。NASDAQ上場企業だったが、2014年に投資ファンドのBCパートナーズに買収され非公開企業となった(冒頭写真)。
ペットフード、ネコ砂など日常的な消耗品が多く、かつ重くてかさばるペット用品はネット販売との親和性が高いといわれている。アマゾンの攻勢もあり、両社ともネット販売の強化を進めている。
そんななか、PetSmartは2017年にペット用品のネット販売で急成長し注目が高まっていたチューイー(CHWY)を買収、そのチューイーは2019年6月に新規上場を果たした。
チューイーの取扱商品はペットフードや健康用品、グッズなどを中心に1600以上のブランドの4万5000アイテムにのぼる。
年中無休24時間体制のカスタマーサポートのほか、ペットの誕生日にはお祝いメッセージが送られてくるなどのサービスも高く評価され、2019年6月末時点の会員数は前年比39%増の約1200万人に達している。
APPAのペット産業調査で最もウェイトの高いペットフード。この分野には食品企業が続々と参入し激戦区となってきている。
まずM&Mやスニッカーズなどのチョコレート菓子で知られるマーズだ。
同社は2002年にフランスのペットフード企業を買収しペットフード事業に参入すると、M&Aにより事業を拡大し、2014年にはP&Gの3つのブランドを買収し、現在では世界シェアトップの地位を確立した。
「シーザー」「ぺディグリー」など日本でもおなじみのブランドを保有している。またM&Aを駆使して、動物病院事業や高品質の獣医ケアなど幅広くペット事業を展開している。ただ、同社も非公開企業だ。
家庭用コーヒー、ジャムやピーナッツバターなどを製造する食品加工メーカーのJMスマッカー(SJM)は、2015年にペットフードやペットスナックなどを手がけるビッグ・ハート・ペットを買収しペットフード事業を3本目の柱に据えると、2018年4月にはプレミアムペットフード「Nutrish」ブランドを持つエインズワースを買収、売上高ベースでは最大の事業セグメントに拡大している。
続いて日本ではあまりなじみがないかもしれないが、ブルーバッファローにも注目だ。ペットは大切な家族の一員、当然素材にこだわった自然食志向のペットフードへのニーズは高まっている。そんな自然食品のペットフードに特化し成長してきた。
同社の公表資料を見ると、売上高は2016年が11.9%増、2017年が10.8%増、純利益は45.7%増、48.5%増とその急成長ぶりがうかがえる。
このブルーバッファローを2018年に買収したのがシリアル食品やスナック菓子、ハーゲンダッツアイスクリームなどを製造する食品大手のゼネラル・ミルズ(GIS)だ。同社はこの買収により、新たにペットフード事業に参戦した。
また、自然食ペットフードの専門メーカーであるフレッシュペット(FRPT)も、売り上げ規模はそれほど大きくないが着実に拡大を続けている。
■アニマルヘルス分野も好調続く
ペットの健康問題は飼い主にとって最優先事項。その証拠に、ペット関連市場のなかでも医薬品や健康関連製品などアニマルヘルスはとくに伸びが大きな分野となっている。この分野の世界トップ企業がゾエティス(ZTS)だ。同社はファイザーから2013年に分離・独立した企業で、家畜向けとペット向けの医薬品やワクチン、寄生虫駆除剤などの製造・販売を行っている。
直近2019年1〜9月期は、家畜向けは減少したもののペット向けが大幅に増加し全体の収益を牽引した格好だ。2018年は獣医向け診断機器のアバキス、直近も馬用栄養食品のプラチナム・パフォーマンスを相次いで買収するなど、M&Aによる業容の拡大を進めている。
2018年9月に上場したのがエランコ・アニマル・ヘルス(ELAN)。イーライリリーの動物用医薬品部門がスピンオフして誕生した企業で、家畜向けを主軸に、ペット向けも含めた治療薬やワクチン、健康食品などを手がけている。2019年8月、独バイエルの動物医薬品事業の買収を発表、これにより世界第2位のアニマルヘルス企業へと大きく飛躍することとなった。
アイデックス・ラボラトリーズ(IDEXX)は獣医向けの臨床検査用品の世界的トップ企業で、とくにペット用の動物病院内検査機器や検査キット、ソフトウェアに強みを持つ。
直近2019年1〜9月の売上高は前年同期比8%増、純利益も同15%増と業績は好調だ。前述の通り、同業のアバキスがゾエティスに買収されたことを受け一時株価が大きく下落したが復調し、現在は最高値圏で推移している。
ペットの医療費支出増にともない、ペット保険のニーズも高まっている。大手がトゥルーパニオン(TRUP)だ。同社が提供するサービスは、プランが1本だけとシンプルで、補償額に上限がなく、かかった費用の90%が治療終了後に病院に直接支払われるという内容。動物病院や獣医師との提携を強化し、2019年9月末時点の加入登録ペット数は前年の9月末から13万匹増え、61万匹に達している。
■ITを駆使したペットテックも本格化
今や多くの分野でITを駆使したニュービジネス「○○テック」が花盛りだが、この分野でも「ペットテック」が本格化している。スマホを利用した留守中のペットの見守りや自動で餌をやる機器、犬の健康状態や行動をモニターできる首輪などは日本でもすでに利用されている。
アメリカで注目を集めたサービスとしては犬の散歩代行ビジネスがある。
散歩を依頼したい飼い主と散歩代行を行う登録者とを専用アプリを使ってマッチングさせるというビジネスで、ワグとローバーが代表的な企業として知られている。こちらも、日本で同様のビジネスが始まっている。
まだまだ成長が見込まれるペット関連市場、先行するアメリカから新たな商品・サービスが登場してくるのは間違いない。
加藤 千明 :東洋経済『米国会社四季報』編集部
posted by しっぽ@にゅうす at 09:07
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