動物たちは何を考え、感じているのか? ずっと以前から興味を引きつけてきたこの疑問について、サイエンスライターのバージニア・モレル氏は新著『Animal Wise(動物の賢さ)』の中で探索を行った。
モレル氏は執筆にあたってイルカや飼い犬といったなじみ深い生き物に焦点を当て、革新的な研究者たちが動物の心理を研究する様子を追っている。
同氏に新著について、また動物の頭の中のどんなことを知ってほしいのか話を聞いた。
◆この本を書くきっかけは?
昔から動物が好きで、初めての著書はリーキー一家の伝記『Ancestral Passions(祖先への情熱)』でした。執筆のためジェーン・グドール(Jane Goodall)氏にインタビューをしようとゴンベ渓流国立公園(タンザニア)を訪れたところ、彼女は私がチンパンジーを観察することが重要と考えました。そこで初めて会ったチンパンジーを見ていると、彼らの心の中をさまざまなことが行き交っているのは明らかだと感じたんです。そこで、この伝記を書き上げたら進化生物学の分野を検証しようと考えました。
進化生物学者たちが知性の進化に興味を持つようになったのは1980年代後半から1990年代のことです。ダーウィンは、生物は肉体のみならず知性の面でも進化していると考えていました。
今回の本の最後で示したかったのは、我々が新たな境地に達しつつあるということです。この惑星に住むあらゆる動物が知性を有することが認識されてきており、それがいかに素晴らしいことなのか。どの動物も脳を持ち、ニューロンが興奮し、決断を下します。少なくとも、彼らには行くべき場所があり、やるべきことがある。ゾンビのようにただよろめきながら生きているだけの存在ではないのです。
◆読者は驚いたでしょうか? どのような反応がありましたか?
この本が人生を変えた、世界観が一変したというメッセージをもらっています。ほかの動物が(本能にプログラムされた行動をとる)ロボットではなく、(人間と同じように)生きていて感覚のある生き物なんだと認識できるところまで、人々の心を開くことができたように思います。
◆動物の知性を調べる研究者たちは、どのような課題に直面していると感じましたか?
まずひとつは、動物が計画性を持つかどうか。これを確かめるためには、極めて巧みな実験方法を考え出す必要があります。また、動物が感じているのはは現在だけで、過去や未来の感覚はないとする説もあるんですが、その点を検証するのも容易ではありません。
動物が意識(自己認識)を持っていることを確かめることも課題です。そのためには、人間の意識を作り出しているニューロンを特定した上で、動物との比較研究を行う必要があるでしょう。しかし今のところ、感情を調べるためのフレームワークはありません。
◆この本はあなたの人生をどのように変えましたか? 例えば、菜食主義者になりましたか?
鶏肉と魚は食べますが、どちらも少しだけです。この件については以前からかなりの葛藤があります。我々の社会は、全体としては他の動物たちとよりよい関係を築こうとしているし、彼らが(人間と同様な)感覚を持っているという事実は常に気にかかっています。
しかし同時に、人間は肉食性、雑食性であり、動物の肉を口にします。(サイン会や講演では)人々は期待しているかもしれませんが、「私は菜食主義者だ」とは言いません。聖人ぶって見えるだけでしょう。
個人的に心配なのは、生息地が四方八方から飲み込まれ、困難な暮らしを強いられている野生動物たちのことです。地球上で優勢な我々人間は、彼らに気を配る責任があります。
◆今回の著書について何かつけ加えるとすれば?
この本は、例えば魚やアリ、オウムになったらどのような感じなのかという疑問に答えようとするものです。さらには、こういった難しい問題に答えようとする動物行動学者の置かれている立場にも言及しています。彼らは一体何者なのか? ラットが笑うことを発見したのは誰なのか? ラットが笑っていると彼に思わせたのは何だったのか? ラットは1世紀以上前から科学実験に用いられてきましたが、ジャーク・パンクセップ(Jaak Panksepp)氏が発見するまではラットが笑うことを誰も知らなかったのです。
Christine Dell'Amore, National Geographic News