動物 しっぽニュース
認定NPO法人HOKKAIDOしっぽの会

2014年09月28日

どうすれば安全安心:療養に効果「アニマルセラピー」 認知症患者の生活意欲向上

毎日新聞


◇介護保険の適用まだ/動物の適性見定めて/地域の取り組みに注目

 可愛いペットを抱きしめていると心が安らぐ。この体験には科学的な理由があるらしい。動物との触れ合いを通じて心や体の療養を図る「アニマルセラピー」の効果が注目されている。どのような症状に効くのか。介護や医療現場への導入例や、動物を扱う上での注意点などを取材した。【浦松丈二】

 「一日中、椅子に座ったままだったある認知症の高齢者が、仲良くなったセラピードッグの姿を見ただけで立ち上がり、リード(ひも)を握って散歩に連れて行こうとするようになったのです」

 岡山市のNPO法人「介護高齢者ドッグセラピー普及協会」代表で医師の生長豊健(いけながとよたけ)さんはそう語る。生長さんが理事長を務める医療法人・雄風会、社会福祉法人・義風会は、2002年からドッグセラピーを開始。09年からは、特に認知症のリハビリ効果に着目した研究を続ける。「現在、認知症のリハビリには改善に有効と認められる手段がありません。言葉が通じなかったり、患者本人にある程度の意欲がなければリハビリが続かなかったりするからです。そこで言葉に頼らないドッグセラピーを試みたところ、高齢者たちの生活意欲は明らかに向上しました」

 生長さんらは12年度、厚生労働省の補助事業として認知症高齢者30人を(1)ドッグセラピーを実施(2)従来のリハビリ(3)いずれも行わない−−の3群に分け、生活意欲への影響を調べた。その結果、(3)群は意欲が低下し、(2)群は横ばいだったのに対し、ドッグセラピーを施した群は、自分からあいさつをする、食事を進んで取ろうとするなど大幅な改善が見られた。

 「意欲向上には感情、情動が重要です。犬と人間の間に愛情や信頼に近いある種の関係が生まれると、次には人間の側にこの子を守り役立ちたい、好かれたいという感情が自然に芽生える。その感情が大きくなって一定水準に達すると、心身に変化が表れるのではないでしょうか」。この仮説に基づき、現在は12年度よりも対象者を増やし、より厳密な研究を進めているところだ。

 ただ、導入には壁もある。生長さんらは米国からセラピードッグ2頭とトレーナーを岡山に招いてセラピーを始め、現在では7頭を飼育している。しかし、飼育費や犬と一緒に行動するセラピストの人件費などがかかり、利用者の負担はどうしても高額になる。「リハビリの選択肢を増やすためにも、ドッグセラピーを介護保険の対象にしてほしい」と生長さんは訴える。

 1986年からアニマルセラピーに取り組む公益社団法人・日本動物病院協会(JAHA)理事で獣医師の吉田尚子さんは「アニマルセラピー活動は三つに大別されます。動物と触れ合って情緒を安定させることなどを目的とした動物介在活動(AAA)、医療現場で専門的な治療行為として行われる動物介在療法(AAT)、子供たちが動物との正しい触れ合い方などを学ぶ動物介在教育(AAE)です」と解説する。

 同協会は動物病院を営む獣医師を中心に動物看護師、家庭犬のしつけインストラクター、飼い主ら約7000人で構成。12年度はアニマルセラピーを目的とした施設訪問を1144回実施した。

 動物を扱う活動だけに注意点もある。吉田さんは「アニマルセラピーは動物の側も楽しいと感じることが基本です。そうでなければ人間に好ましい効果はもたらされません。動物にも個々に向き、不向きがあるため、適性を見定め、活動ではストレスに注意する必要があります」と指摘する。

 人見知りせず、他の動物を怖がらないことが条件だが、犬なら基本的なしつけができていれば向いている可能性が高いという。協会では活動に10回以上参加した犬や猫、飼い主を対象にセラピー犬、セラピー猫の認定制度を設けている。認定されるとチームリーダーや単独での活動が許される。

 アニマルセラピーを研究する帝京科学大准教授で精神科医の横山章光さんは「幼小児期の発達障害に対する療育の面からもアニマルセラピーは期待されています。欧米では自閉症児が家を出てしまった時に、それを家族に知らせるなど補助犬的役割のテストが進められています。主人の発作を事前に察知して本人に知らせる、てんかん予知犬、介助犬の研究も注目されており、ペットとして飼われている動物の可能性はもっと知られていい」と話す。

 地域ぐるみの取り組みも始まった。

 今年5月26日、山梨県上野原市の介護老人福祉施設「桜の里」と地元の上條内科クリニック、同市内にキャンパスがある帝京科学大が共同で、高齢者を対象にしたアニマルセラピーを実施した。上野原市役所も高齢者福祉の一環として協力している。

 関係者は半年前から打ち合わせを重ね、当日は施設内に犬、ポニー、ニワトリ、インコ、蚕などのブースを特設。蚕が試されたのはかつて同市で養蚕が盛んだったためだ。入所者らは、学生の説明を受けながら身近な生き物と触れ合った。学生らは複数のビデオカメラで撮影。高齢者の反応を分析し次回セラピーの参考にする。

 「地域が一体となったかたちでのアニマルセラピーは画期的ではないか。北海道と沖縄県では生息する動物の種類が違うように、地域によって人間と動物との関係は異なる。地域の歴史、風土に根ざした方法論ができれば、アニマルセラピーの可能性は大きく広がるはずです」と横山さん。

 さらに、こう話す。「従来、アニマルセラピーの普及は動物好きの個人に頼ってきた。地域からニーズが出てきたことで新たな枠組みを構築できる。今後は、地元医師や教育者によるケースリポート(事例報告)を積み上げ、学術的なエビデンスを導き出していくことが重要になってきます」

 身近な動物が介護や医療、教育の現場で活躍する日は近そうだ。
posted by しっぽ@にゅうす at 07:47 | ペット | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする