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2016年04月24日

暗転ドッグショー チャンピオンになるはずが訓練先で「失踪」…法廷闘争で対立した愛犬の財産価値

産経新聞社


犬の姿形を審査するドッグショーで優勝させるべく、愛情と金を注いできた血統書付きの愛犬。訓練担当のプロのハンドラーに預けたところ、柵から逃げ出し、行方不明になってしまった。飼い主側は「将来のチャンピオン犬だった」として、捜索に要した費用も含め約700万円の損害賠償を求めて大阪地裁に訴訟を起こしたが、ハンドラー側は「チャンピオン犬にほど遠く、価値はゼロに近い」と真っ向から争った。裁判所も「飼い主にとってはわが子同然の存在」と認めた愛犬の価値は−。

名家≠フ出身

 判決によると、失踪したのは平成24年6月生まれのメスのチワワ「モモ」(仮称)。生まれながらにしてトップになることが義務づけられたような、いわば名家≠フ出だった。

 母親の「リリ」(同)は社団法人「ジャパンケネルクラブ」(JKC、東京)が主催するドッグショーのチャンピオン犬。さらにリリの親もアメリカチャンピオンという、親子2代にわたる「勝者の系譜」を誇っていた。3代目のモモも当然にその期待を背負っていた。

 JKCのホームページによると、ドッグショーは犬の姿形を審査する品評会。それぞれの犬種の「理想」にもっとも近い犬を評価する目的で行われ、「犬種美の祭典」とも呼ばれる。

 飼い主は25年4月、モモをJKCチャンピオンにするため、ペットショップなどを経営する男性にトレーニングを依頼。この男性こそ、母親のリリを王座につかせた、プロの名ハンドラーだったという。

脱走は運命!?

 一般にハンドラーとは「ドッグショーで犬をリードで引き、審査員の指示に従って犬を歩かせ、審査員に見せる」(地裁判決より)のが役割だ。ライバル犬との駆け引きや事前の訓練も含め「賞をとるまでのあらゆること」(同)を担うとされる。

ハンドラーの男性は25年4月上旬にモモを預かり、同居して店を手伝ってくれている女性に、いったんモモの世話を任せた。

 女性は店舗内の高さ約1メートルのサークルにモモを入れ、天井部分に蓋を置いて管理していた。しかし蓋の面積は天井部分より小さく、隙間があった。

 当時のモモの体重は約1・8キロ。大人のネコより小さい超小型犬だった。そのうえ、1メートルの柵を跳び越えたことがあるなど、ジャンプ力に長けていた。わずかなスペースでも逃げ出してしまう恐れがあった。

 4月下旬の夕方、女性が店舗近くの物干し場で洗濯物を取り込んでいたときのこと。「今走っていった犬、あんたのとこの犬と違うか?」と近所の住民に声をかけられた。女性がサークルを確認すると、モモがいない。蓋は手で押せば動く状態で、出入り口の引き戸も開けっぱなしだった。

 女性はすぐさまハンドラーや警察に連絡してモモを捜したが見つからず、数日後に飼い主に連絡。飼い主とその妹夫婦も現地入りしたが、モモの行方は分からずじまいだった。

 今後の捜索について飼い主と話し合った際、ハンドラーはこう言ったという。「モモの脱走はモモの運命。一つの寿命」

抜歯費用や犬の保育園代も請求

 26年、飼い主は精神的苦痛を受けたとして大阪地裁に提訴。訴訟で主な争点になったのは損害額だった。

 まずモモの財産価値について、飼い主側は将来のチャンピオン犬であること、さらにその血統を踏まえ、価格は80万円に上ると主張した。

 また、ショーに向けてモモの歯並びをよくするための抜歯手術代、社会性を身につけさせるための「犬の保育園」でのトレーニング代も請求した。

さらに、もっとも大きな損害として計上したのがモモの捜索費用だった。モモの失踪後、飼い主の妹夫婦はハンドラーの施設近くのアパートに移住。妹の夫は仕事を辞めてまで、モモ捜しに専念したという。

 このため飼い主は25年12月までのアパートの賃料のほか、時給800円で計算した妹夫婦の1日の人件費も加算。捜索協力を求めるチラシや新聞折り込み広告の費用を含め、捜索に絡んで約300万円の支払いを求めた。

 これに慰謝料200万円と弁護士費用なども足して請求額は計約705万円となった。

 一方、ハンドラー側は「モモは骨格個性がよろしくないし、性格もテリア気質(物おじしない堂々とした風格)ではない。当然にチャンピオンになることが予定された犬ではない」として、モモの価格はゼロに近いと反論。さらに「犬は法律上、物であり、物に関する慰謝料は認められない」と主張した。

 モモの脱走を防ぐための管理責任についても「常識的にあり得ない方法で逃走した」として、落ち度はないと訴えた。

賠償責任認めるもシビア≠ネ判断

 今年3月の地裁判決は「将来確実に飼い主にモモを返還できるよう、逃げ出すのを防止すべき義務があった」として女性の注意義務違反を認定。ハンドラー自身にも使用者責任があるとしたうえで、損害額を個別に判断した。

 まずはモモの価格。将来のチャンピオン犬か否かについて、判決は「逃げ出す前に出場したドッグショーでは3頭中2席だったり、4頭中4席の結果だったりで、チャンピオンになることが予定されている犬だったとは認められない」と指摘。一般的なチワワの子犬の販売価格を7万〜12万円とし、それにモモの血統を加味して、財産価値は15万円と算出した。


抜歯代や犬の保育園代については、モモの管理を怠ったという不法行為とは因果関係がないとして認めなかった。

 そして妹夫婦の移住捜索≠ノついては「アパートを借りて捜索することが一般的であるとはいえないし、犬の捜索のために仕事を辞めて転居することが一般的であるともいえない」とし、人件費を含めて請求を退けた。

 結局、損害として他に認められたのは捜索にかけたチラシ代や交通費の一部、慰謝料20万円などにとどまり、認容額はトータルで約52万円となった。

 飼い主の自宅から、モモの失踪場所までは高速道路を使って約80キロ。妹夫婦を移住させただけでなく、飼い主自身もその距離を何度も往復、いなくなったモモの姿を必死に追い求めた。

 そこには間違いなく愛情が存在していた。判決の言うように、その注ぎ方が「一般的ではない」としても。



posted by しっぽ@にゅうす at 07:44 | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする