地震に豪雨災害、台風と、今夏は数多くの災害に見舞われた。早めの避難が呼びかけられる中で、大切な“家族”の一員であるペットをどう守ればいいのか。「人向けの防災セットはそろえたが、ペットの分はどうしよう…」という人も多いはず。人と同伴避難することを想定した、イヌ用の防災グッズが注目されている。(木ノ下めぐみ)
どこでも備え必要
9月4日に台風21号が通過し、大きな被害に見舞われた近畿地方。大阪府東大阪市の看護師、柏本佳奈子さん(40)の自宅でも強い風雨が窓を打った。
看護師という職業柄、災害時には病院などに向かわなければならない。そんなとき、柏本さんは、隣接する両親宅にあんちゅ君(チワワ)を預け、高齢の実母が、両親宅にいるチワワと合わせて3匹を連れて避難する、と決めている。
この日は結局、避難するには至らなかったが、両親宅のチワワは風雨の音におびえて動けなくなったという。「どういう事態になるか予測がつかない。これまで『大阪は大丈夫』と過信していたけれど、万全な備えが必要だと痛感した」(柏本さん)
環境省の「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」は、ペットとの同行避難が望ましいとしているが、東日本大震災や熊本地震などの際には、ペットといっしょに避難できず、飼い主と離散したペットをどう保護するかが問題となった。
また、避難所に同行できたとしても、同じ室内で過ごす「同伴避難」が認められているかどうかは避難所ごとに対応が分かれているのが実情だ。
動物特有の臭いの問題▽動物にアレルギーのある被災者への対応▽高齢者や小さな子供にかみつく懸念がある−などさまざまな理由が“壁”になるためだ。
プロが選ぶ安心感
こうした状況の中、子イヌ向け商品を扱っている「こいぬすてっぷ」(東京都港区)は9月から、ペットの防災グッズセットの販売を始めた。獣医師監修のもと、包帯や洗浄用ボトル、排泄(はいせつ)物の防臭剤など10点を入れ、応急処置の方法や避難所生活の心得をまとめた防災手帳も入っている。
同社がイヌの飼い主向けに実施した全国調査には、7割以上が「ペットへの防災対策ができていない」と回答したという。獣医師でもある石田麻実社長(32)は「特にこの1、2年で、人間と同様、ペットも守ろうという防災意識が高まっています」と話す。
北海道や関西など、直近に災害が起こった地域からの注文が多いという。柏本さんもセットを受け取り、「自分なりにそろえた防災用品にプロが選ぶ防災セットを加えることで、安心感が増した」と話した。
肉球保護する靴
ほかにも、折れた木やがれきが散乱する路上でイヌが足をけがしないよう、イヌ用の靴を買い求める飼い主が増えているという。
イヌの肉球を保護するイヌ用の靴や靴下などを平成28年から販売している「ドックドッグ」(東京都港区)は、約10種類の靴を取りそろえている。
もともと、夏の日差しで高温になった地面から愛犬の肉球を守ることを想定して作られたものだ。しかし、ある愛犬家から「被災時にあればよかったのに」という、思いがけない声が寄せられた。この愛犬家は、熊本地震で避難所にいた際、飼いイヌの足が、床や他の人の服を汚さないか心配したという。大阪の台風被害の直後にも、イヌの足を守るという視点から、問い合わせが殺到したという。
同社広報の丸山佳那さん(30)は「イヌ用の靴は、ファッションアイテムとしてみられがちだが、足を守るという機能面の良さを、もっと多くの人に知ってほしい」と話している。日頃から靴を履かせ、靴の感覚にイヌを慣らしておくことが大切だとアドバイスしている。