動物 しっぽニュース
認定NPO法人HOKKAIDOしっぽの会

2019年01月12日

マダニが媒介する新興感染症「SFTS」の脅威 ペットの犬、猫を通じた感染例も

Yahoo! JAPAN



マダニに咬まれて人が死ぬ!?
 近年、ダニに噛まれた人が病気になって死に至る、というニュースが話題になっています。その病気とは「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」と言われるウィルス感染症で、吸血性のダニであるマダニが媒介します。この病気は、2009年に、中国中央部で原因不明の発熱症が集団発生したことから調査が進められ、2011年に病原体ウィルスが特定された、新興感染症です。

外来爬虫類、昆虫などに寄生して「ダニ」が密入国!? 危険な種類も

 SFTSウイルスに感染すると6日〜2週間の潜伏期を経て、発熱、食欲低下、嘔気・嘔吐・下痢・腹痛などの消化器症状、頭痛、筋肉痛、意識障害・失語などの神経症状、リンパ節腫脹、皮下出血・下血などの出血症状などを起こして、最悪死に至ります。現在までのところ有効なワクチンも治療薬もなく、発症した場合は対症療法しかないとされる怖い病気です。

 当初、対岸の火事と思われたこの病気は、2013年1月に、厚生労働省より、日本初の感染事例が報告され、日本でもニュースとなって話題になりました。その後も発症例が報告され続け、これまでに393名の患者が確認され、うち64名が死亡しています(2018年11月28日時点、国立感染症研究所)。

マダニが媒介する新興感染症「SFTS」の脅威 ペットの犬、猫を通じた感染例も
マダニの生活史
マダニとはどんな生物か?
 マダニとは、節足動物門クモ綱ダニ目マダニ亜目に属するダニのことで、世界で1500種以上、日本国内で40種以上が確認されています。マダニ亜目のダニには、皮膚の硬いマダニ科(Ixodidae)と皮膚の柔らかいヒメダニ科(Argasidae)が含まれていて、一般に「マダニ」と称される種類はマダニ科に属する「硬いマダニ」の種のことを指します。また、今回話題にするSFTSをはじめ、私たち人間に深刻な感染症をもたらすケースが多い種も「硬いマダニ」に属する種になります。ここでは、このマダニ科に属する「硬いマダニ」=マダニとして解説することにします。

 マダニは、主に自然環境中の森林や草むらの中に生息しており、哺乳類や鳥類(種によっては爬虫類)の血液を吸って栄養源にします。卵→ 幼ダニ→ 若ダニ→ 成ダニ→ 産卵という生活環を持っていて、幼虫、若虫、および成虫の各ステージで宿主動物に寄生して吸血を行います。

 ステージごとの生活様式を詳しくみてみると、まず、土の中に産み付けられた卵がふ化して幼ダニに発育します。この発生は春に限らず、夏から秋にかけても起こります。幼ダニの大きさはわずか1ミリメートル程度しかありません。これらの幼ダニはネズミなどの小型ほ乳類に寄生して3〜4日間吸血します。そして飽血(満腹)状態になると地面に落下して休眠し、1週間程度で脱皮して若ダニに成長します。

 体長2〜3ミリメートルほどの若ダニはウサギなどの中型ほ乳類や鳥類に寄生して4〜5日間吸血します。そして、再び飽血して地面に落下し、休眠に入ります。休眠覚醒後、最後の脱皮をして成ダニに成長し、シカやイノシシなどの大型哺乳類に寄生して最後の吸血を行います。未吸血の成ダニは大きさが3〜4ミリメートル程度で、5〜6日間吸血することで最大2センチメートルまで膨れ上がります。

 飽血したメスの成ダニは地面に落下して産卵を開始します。1匹のメスで600〜6000個もの卵を産みます。産卵後、メスはその生涯を閉じます。この卵から成虫に至るまでは2〜3年かかるとされ、その長い生涯の間で、マダニはたった3回しか吸血しません。

マダニはどうやって獲物を見つけるのか?
 ほとんどのマダニ種にはメスとオスがいて有性生殖を行いますが、マダニの1種フタトゲチマダニには有性生殖系統と無性生殖系統が存在し、無性生殖系統では、メスが単独で自分のクローン卵を産みます。

 マダニは目にあたる器官は持つものの、視力はほとんどなく、暗いか明るいかぐらいしかわからないようです。では、どうやって獲物を見つけるのか? マダニは前足の先端にハラー器官という、大気中の二酸化炭素を探知する器官を持っており、この器官によって、動物の吐息による二酸化炭素濃度の微妙な変化を感じ取り、宿主動物が近づいてくることを察知するのです。そして、草や木の先端に集まり、動物が接近したところでその体表に素早く取り付きます。

 そして宿主動物の皮膚上を徘徊した後、鋏角(きょうかく)といわれるはさみ状の口器をつかって動物の皮膚にメスを入れ、口下片(こうかへん)といわれるくちばしをその傷口に差し込んで吸血を開始します。

マダニが媒介する新興感染症「SFTS」の脅威 ペットの犬、猫を通じた感染例も
人のSFTS発症報告数(2018年11月28日現在、国立感染症研究所HPより抜粋)
マダニが媒介する感染症
 マダニはSFTSだけでなく、もともと他にも怖い病原体を媒介する動物として知られています。日本国内で確認されているマダニ媒介性の感染症には以下のようなものがあります。

マダニが媒介する主な感染症(左から病名―病原体の種類―主な症状)
日本紅斑熱―リケッチア―発熱・発疹
Q熱―リケッチア―高熱、頭痛、悪寒、筋肉痛、倦怠感
ライム病―ボレリア―遊走性紅斑、筋肉痛、関節痛、頭痛、発熱、悪寒、倦怠感、神経症状
回帰熱―ボレリア―高熱、頭痛、筋肉痛、関節痛、全身倦怠感、咳嗽
ダニ媒介性脳炎―フラビウイルス―発熱、痙攣・眩暈・知覚症状
SFTS―フレボウイルス―発熱、消化器症状、神経症状

 この他にも、海外では「クリミア・コンゴ出血熱(ウィルス)」「キャサヌル森林病(ウィルス)」などが報告されており、厚生労働省の感染症法で監視対象の指定を受けています。

 これらの感染症は、いずれも特効薬はなく、重症化すると、最悪死に至る恐ろしい病気ばかりです。媒介するマダニは、フタトゲチマダニ、キチマダニ、タカサゴキララマダニ、ヤマトマダニ、オウシマダニなど、全国に分布している種とされます。従って、マダニによる感染症の感染リスクは、本来、全国レベルで警戒する必要があります。

 もっとも、これらマダニ類の生息はほとんどが山林や草原など自然が豊かなエリアに限られており、マダニに噛まれること自体、頻繁に起こることではなく、また、噛まれて病原体に感染する確率、さらに病気が発症する確率は極めて低いことから、これまでダニ媒介性の感染症が社会的に注目を集めることはほとんどありませんでした。

 そんななか、突如としてSFTSという新興感染症が登場し、にわかにその危険性が増していることが社会的問題となりつつあります。


SFTS感染リスクの増大
 SFTSの感染患者はこれまでに石川県以西の23府県で届出が確認されており、傾向として西日本に偏っているとされます。厚生労働省・国立感染症研究所の報告によれば、九州から北海道の28自治体で2007〜2015年にかけて捕獲されたニホンジカのSFTSV抗体保有率を調査した結果、西日本を中心に高い保有率が示されています。抗体保有率が高いということは、そこに生息するシカが過去にSFTSウィルスに感染した割合が高いことを意味します。

 一方、九州から北海道の26自治体で2013〜2015年にかけて国内に生息するマダニ野生集団内の重症熱性血小板減少症候群ウイルス(SFTSV)遺伝子保有状況をリアルタイムPCRで調査した結果、タカサゴキララマダニ、フタトゲチマダニ、キチマダニ、オオトゲチマダニ、ヒゲナガチマダニ等、複数のマダニ種から、SFTSV遺伝子が検出され、患者が発生している自治体に限らず全国的にウイルスを保有するマダニが分布していることが示されています。

 これらのことから、本来、SFTS患者は日本全国で発生する可能性があると考えられますが、実際には西日本に偏っています。その理由としては、シカなどの野生動物と人間の生活圏との間の距離が特に西日本エリアでは接近していることから、ウイルス保有マダニによる咬傷被害リスクが高いためであると推測されています。

 しかし、ウイルスに感染する動物はシカだけではなく、様々な野生動物が感染および媒介をしていると考えられ、その後の調査で野生のイノシシからもSFTSウィルスの抗体が検出されており、シカ・イノシシの人間社会への急接近がすでに全国規模で発生して、深刻な環境問題となっている現状を考えれば、今後、このウィルス感染症が全国規模に拡大する可能性を警戒する必要があります。

 そして、さらに感染リスクを高める要因として、外来生物の存在が指摘されています。


特定外来生物アライグマによるSFTSの拡大リスク
 山口大学・森林総合研究所の共同研究チームによって、和歌山県内で捕獲されたアライグマのSFTSウイルス抗体保有率を調査した結果、2007年には捕獲個体28匹中わずか1匹しか保有個体が認められなかったのに対して、2008年以降、抗体保有率は年々上昇して、2015年には捕獲個体の50%以上に抗体陽性反応が認められたのです。

 さらに抗体保有個体の分布を調べた結果、海岸線に沿った平野部の市街地エリアで抗体保有個体が広がっていることが確認されました。このことは、外来種であるアライグマが新たなるマダニおよびSFTSウイルスの運び屋となっており、我々の身近なところまでこの感染症を持ち込むリスクが急速に高まっていることを意味します。

 アライグマはすでに日本全国に分布を拡大しており、特に関東や関西の人口密集エリアでの増加が問題となっています。アライグマ集団におけるマダニ寄生率が今後全国規模で拡大していけば、東京や大阪などの大都市でもSFTSの患者が増加する可能性も無視できなくなります。

ペット動物がSFTSを媒介!?
 そして、SFTS感染リスクをもっとも深刻にする要因がペット動物になります。国立感染症研究所の調査によれば、西日本を中心に各地の飼育犬でSFTSV抗体保有個体が確認されており、さらに山口県の飼育犬における疫学調査研究では、136頭の検体中5頭(3.7%)にSFTSV抗体保有が確認され、さらに別の2頭(1.5%)の血液からはSFTSウイルス遺伝子が検出されました。しかもこれらの検体はいずれも全く症状が出ておらず、健康状態には問題がありませんでした。このことは、イヌの体内でウイルスが存在し続けていたことを意味しており、感染したイヌと濃厚接触をすることで、イヌから人へSFTSが感染するリスクを強く示唆するものでした。

 このイヌから人への感染が起これば、SFTSウイルスは従来のダニ媒介性感染症とは決定的にリスクのレベルが異なる病原体となります。つまり「ダニという動物に噛まれない限り感染しない」病気ではなく、「感染した動物からも感染し得る」病気、すなわちSFTSは「人獣共通感染症」という、狂犬病などと同じカテゴリーに属する危険な感染症となるのです。

 そして、実際にその恐れは2017年に一気に現実味を帯びることとなりました。同年10月に厚生労働省が、徳島県において病気で弱った飼い犬を介護していた40代男性の飼い主がSFTSを発症したとして調べた結果、イヌからもSFTSウイルスが検出され、状況からみてイヌから人に粘膜を介してSFTSが感染したものと判断される、との報道発表を行いました。幸いにして、このイヌと飼い主はその後回復したとのことでしたが、このニュースは関係者の間に大きな衝撃をもたらしました。「イヌも人間と同様にSFTSを発症する」=「ウイルスがイヌ体内でブーストするリスク」および「イヌから人へ感染するリスク」が示唆されたのです。

 イヌでの感染実態については中国においても同様の調査結果が示されていましたが、興味深いことに、ネコに対する調査では、一切、抗体保有個体が検出されなかったということで、ネコはもともとマダニには噛まれにくい動物なのではないかという推測もされていました。

 ところが、この推測もまた2017年に覆されました。同年6月に山口県においてSFTSを発症したネコが確認され、「ネコも人と同様にSFTSに感染して発症する」ことが明らかになりました。そして同年7月に、厚生労働省から、野良猫にかまれた50代の女性がSFTSを発症し10日後に死亡していた、と発表されたことで「SFTSはネコからも人に感染し得る」ことも明らかになりました。また同じ年の8月には、広島県安佐動物公園で飼育されていたチーター2匹が相次いでSFTSで死亡したことが報告され、ネコ科動物がSFTSウイルスに対して高感受性であることが強く示唆されました。

 さらに昨年2018年8月には宮崎県において、SFTSに感染したネコを診察した獣医師および看護師がSFTSに感染した事例が報告され、飼育動物を介したSFTS感染リスクの現実性は決定的なものとなりました。


SFTSウイルスは大陸と日本の間を移動している可能性も
 中国でSFTSウイルスが発見されて以降、そのDNA情報の収集と起源を探る研究が進められています。我が国においても、2013年に初の発症例が報告されてからすぐに、国立感染症研究所を中心に、ウイルスのDNA分析が行われてきました。これまでの調査結果によれば、大陸で検出されたウイルスと日本で検出されたウイルスの間にはDNA情報に差があり、日本のSFTSはもともと日本に古くから存在していたものと推定されていました。

 しかし、2018年に中国の研究者グループが科学誌「Scientific Reports」に発表した論文によると、アジア各地より検出されたSFTSウイルスDNAの分子系統解析の結果、日本および韓国で検出されたSFTSウイルスのDNA系統は中国国内においても認められており、大陸と日本の系統は二分されるものではなく、むしろウイルスは長距離を移動・分散していると考えられ、ウイルスを保有するマダニの運び屋として、渡り鳥の可能性も示唆されています。

 中国国内においてもSFTSの発症例の確認は2009年と比較的新しいことから、このウイルスの起源や、人間社会への進出年代、移動・分散のルートについては、さらに調査を進めていく必要があり、同時に日本、中国および韓国など、アジア全体での研究の連携および情報の共有が感染症管理の観点から重要になるものと思われます。

マダニが媒介する新興感染症「SFTS」の脅威 ペットの犬、猫を通じた感染例も
山林から野生動物が人里へと進出することによってマダニが「下山」して、そのマダニを外来動物アライグマが都市部へと運び、ペット動物に寄生することで人間生活に感染症リスクをもたらす、という新しい人獣共通感染症の分布拡大プロセスが成立している
身近に迫るマダニの脅威
 実はSFTSに限らず、ダニ媒介性の感染症リスクは身近に迫っているとされます。「日本紅斑熱」というSFTSとは別のマダニ媒介性ウイルス感染症は、日本では以前から知られている病気でしたが、1994年まで年間10〜20名程度だった症例数は、1995年以降増加傾向にあり、その発生エリア(県)も拡大しているとされ、やはり、マダニが私たちの身近なところまでその生息域を拡大していることを強く示唆しています。

 この分布拡大をもたらしている究極要因として、農山村放棄によるシカ・イノシシなどの野生鳥獣の増加、人間生活圏への進入、そしてアライグマなどの外来動物の分布拡大・都市適応など、我々人間の社会と野生生物の世界との間の境界および均衡(バランス)が崩壊していることが挙げられます。さらにイヌやネコといった愛玩動物までもがマダニ感染症リスクのキー生物となろうとしています。

 野生鳥獣管理および愛玩動物管理は今後、人間および野生動物の健康な社会を保全するためにも重要な課題となります。

One Health(ワンヘルス)という概念の重要性
 人間社会で流行する感染症が、野生動物の脅威になるケースもあります。SFTSも野生動物と人間社会の間でマダニを介して感染が広がっていますが、特にネコ科動物に対して深刻な症状をもたらすとすれば、今後、ツシマヤマネコやイリオモテヤマネコなど、希少な絶滅危惧種の存続を脅かす要因にもなりかねません。

 実際に、我々国立環境研究所の研究グループが長崎県の対馬に侵入・定着している外来昆虫ツマアカスズメバチの調査のために、同島に赴いた際、ツマアカスズメバチの野生巣を観察していたら、海岸沿いの道路脇に広がる草むらに想像を絶する高密度でマダニ幼体が生息していることを偶然発見して、大変驚くと同時に、今まで知らずに調査をしていたことに思わず恐怖を感じてしまいました。

 周辺を調べてみると、大量のシカのフンが確認されました。現在、対馬島内では野生のシカが増加を続けており、人の生活圏にまで侵入してきていることから、おそらくマダニもそれに伴って分布域を広げているものと予測されます。

 島内に生息するツシマヤマネコも、道路での交通事故件数が増えるなど、その生息域と人間の活動圏との重なりが拡大していることが問題となっているなか、ツシマヤマネコ集団中にマダニ寄生が急増するようなことが起これば、SFTS感染によって集団が壊滅状態に陥り、最悪絶滅する恐れも想定されます。

 現時点で対馬島内においてSFTS患者の発生は報告されていませんが、九州地方はSFTSウイルス患者の多発エリアとなっており、対馬においても早急にマダニ集団中におけるウイルス保有状況および野生動物やペット生物における抗体保有率の調査を行うとともに、ツシマヤマネコ集団の保全対策を検討する必要があります。

 現在、森林総合研究所が中核となって、国立環境研究所、山口大学および兵庫県立大学と共同でSFTS感染予防のための野生鳥獣管理プロジェクトが立ち上げられており、動物学者、ダニ学者、そして獣医学者が連携して調査・研究を推進しています。ツシマヤマネコの保全対策も本研究プロジェクトの一環として検討が進められようとしています。

 人間の健康と野生生物の健康、そしてそれらを取り囲む自然環境は一体であり、持続的な自然共生社会を構築するためには、医学・獣医学・生態学など様々な研究分野が学際的に連携して感染症対策に取り組むことが重要であるとする「One Health(ワンヘルス)」の概念が、いま世界的に広がりを見せています。

 SFTSの感染防止は、まさにワンヘルスとしての対策が求められる課題です。今後我が国においても、環境省、厚生労働省、農水省など関係省庁がセクトの壁を超えて、感染症対策のための連携体制を作り上げることが強く望まれます。
posted by しっぽ@にゅうす at 09:33 | 動物 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする