動物 しっぽニュース
認定NPO法人HOKKAIDOしっぽの会

2019年05月13日

狂犬病予防接種は必要か…国内感染例60年以上なし、獣医師会は「接種率7割以上必要」と主張


Yahoo! JAPAN



編集委員 石黒穣
 飼い犬の狂犬病予防注射の必要性を巡り、専門家の間で議論が起きている。動物の疾病対策を受け持つ国際機関が、注射義務を定める狂犬病予防法の見直しを勧告し、国内研究者からも懐疑的な見解が出されているのだ。

狂犬病予防接種は必要か…国内感染例60年以上なし、獣医師会は「接種率7割以上必要」と主張
狂犬病予防注射を呼びかける厚労省のチラシのデザイン
「時代遅れ」国際獣疫事務局が報告書
 狂犬病予防法は、年1回犬にワクチン注射を打つことを義務づけており、4月1日から3か月の一斉注射期間が始まった。

 法律の「見直し」「改定」を勧告したのは、国際獣疫事務局(OIE)だ。日本の獣医療に関する総合的な評価報告書を2018年7月にまとめ、その中で言及した。

 国内発生が1957年を最後に60年以上ない中で、流行リスクが「過度に厳しく」評価され、過剰対策になっているというのが理由だ。この報告書は、農林水産省および、同省とともに狂犬病対策を所管する厚生労働省内部の検討資料にとどめられ、国民には広く知られていない。

 報告書は、狂犬病予防法が野良犬があふれた戦後間もない時期に施行されたものであり、放し飼いが原則禁じられている今日には、「時代遅れ」との見方を示した。実質的に、義務的な注射の廃止や緩和の検討を求めた。

 狂犬病予防注射の料金は1回3千数百円だ。2017年度には全国で451万頭が予防注射を受け、飼い主の費用負担は全体で約150億円に上ったとみられる。

 報告書は、日本の狂犬病対策で「費用対効果」の視点が抜け落ちているとの判断も示した。

 OIE関係者は勧告について「国際的なリスク評価の基準を踏まえ、資金や労力の適正配分を重視している」と解説する。勧告に強制力はないものの獣医療効率化に向けて指標となる。

感染動物が侵入する確率、4万9000年に1度
 一方、義務的な注射を廃止しても「大規模な流行は起こりにくい」とする研究結果をまとめたのは、山田章雄・東大名誉教授を中心とするグループだ。

 山田氏らは厚労省の研究班として15年度まで、疫学や統計調査を行った。その後も研究を続け、最新成果を国立感染症研究所発行の学術誌(ネット版)で18年12月に公表した。

 日本の厳しい検疫をすり抜けて感染動物が侵入する確率は、4万9000年に1度との計算値を示すとともに、万一侵入しても、感染の連鎖は起こらず自然に収まると結論づけた。

WHO指針、日本に当てはまるのか
 一方、義務的な注射を廃止しても「大規模な流行は起こりにくい」とする研究結果をまとめたのは、山田章雄・東大名誉教授を中心とするグループだ。

 山田氏らは厚労省の研究班として15年度まで、疫学や統計調査を行った。その後も研究を続け、最新成果を国立感染症研究所発行の学術誌(ネット版)で18年12月に公表した。

 日本の厳しい検疫をすり抜けて感染動物が侵入する確率は、4万9000年に1度との計算値を示すとともに、万一侵入しても、感染の連鎖は起こらず自然に収まると結論づけた。

獣医師の主要収入源
 厚労省の当局者は、「狂犬病対策の改革が必要なことは承知している」としつつ「飼い主のほか獣医師、ワクチンメーカーなど利害関係者の理解が先決だ」と語る。

 全国の獣医師にとり、狂犬病注射は、主要収入源の一つで、注射義務の見直しは死活問題との声も聞かれる。予防注射の費用を負担するのが飼い主にほぼ限られることは、国民的議論として広がりにくい要因となっている。

【狂犬病】
 ウイルスが原因となり、すべての哺乳類が感染する。ウイルスは唾液中に多く、かまれることで広がる。人では1〜3か月の潜伏期間を経て発症する。発症してからでは治療法がなく、脳炎などで死亡する。感染してもワクチン接種などで発症を防げる。

【狂犬病予防法】
 戦後の混乱期に流行した狂犬病の封じ込めを目的に1950年に施行された。飼い犬の登録と予防接種を義務化するとともに、野犬駆除の徹底を定めた。施行から7年で狂犬病が根絶された。予防注射を怠ると20万円以下の罰金に処すると定めている。

【国際獣疫事務局(OIE)】
 動物の疾病対策を担う国際機関で、パリに本部がある。加盟国・地域ごとに、食肉衛生や獣医師養成などの体制を総合的に評価し、報告書を作成する仕組みがある。高評価を受ければ畜産物の輸出促進に役立つため、日本は2016年秋に調査団を受け入れた。報告書(英語)は18年7月にまとまり、農水省が「日本の動物衛生体制が全般的に高い評価を受けた」と広報している。それを除けば中身について目立った発信はなく、一般国民にはほとんど知られていない。

流行阻止のため努力継続…境政人・日本獣医師会専務理事
 国内で狂犬病の発生が長年ないからといって、ワクチン接種をやめていいと考えるのは短絡的だ。

 世界的に狂犬病は、多くの国・地域で発生している。人と物が盛んに行き交う今日、ウイルスがいつ国内に持ち込まれても不思議でない。あらゆる哺乳動物に感染するため、感染した動物がどこから入るかわからない。

 流行阻止のため犬の接種率を7割以上にすることは、WHOが推奨している。日本がこの接種率を保つ努力をするのは当然だ。

科学的な判断を…山田章雄・東京大学名誉教授
 我々グループの研究は、狂犬病の国内発生リスクが極めて低いことを示した。ゼロではない。要はリスクをどこまで許容するかだ。

 それは、科学的なデータに基づいて国民が開かれた議論を行い、判断すればいい。万一侵入しても有効な封じ込め策があることや、人がかまれても治療法があることも対策を考える基礎になる。OIEも我々と同様の認識だろう。

 狂犬病流行の恐怖が過大に宣伝され、冷静な議論ができない現状が問題だ。
posted by しっぽ@にゅうす at 08:44 | 法律 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする