動物 しっぽニュース
認定NPO法人HOKKAIDOしっぽの会

2019年07月12日

ペットを自然に放してはいけない、その理由

ナショナル ジオグラフィック



 6月10日、米マサチューセッツ州環境警察(同州で環境やレクリエーションを管轄)は変わった通報を受けた。「自宅の裏庭に約1メートルのトカゲがいるというのです」と、同警察のタラ・カーロー警部補は振り返った。

 マサチューセッツ州チコピーにある現場に到着した警察官が目にしたのは、不機嫌そうな顔をしたこの家の住人と、大型のトカゲ、アルゼンチンテグーだった。南米各地の熱帯雨林や平原が原産のトカゲで、体長1.2メートルを超えることもある。

 だが、それがチコピーに現れても、カーロー氏は驚かなかった。「この手の通報は、年に1回はあります」

 マサチューセッツ州ではアルゼンチンテグーは広く売られており、一般の人が所有するのに許可はいらない。テグーは脱走の名人だとカーロー氏は言い、逃げ出したテグーが見つかるのも決して初めてではない、と続けた。

理解しないまま購入する人々
 どういう事態が起こるか理解しないままエキゾチックペット(風変わりな野生動物のペット)を購入する人が少なくないと、カーロー氏は指摘する。テグーのほかニシキヘビやオウム、フクロモモンガなど、多くの動物がエキゾチックペットとして売られているが、中には20年以上生きるものもいる。長命のエキゾチックペットを世話するには費用がかかるうえ、危険な場合もある。飼われることに慣れていない動物は、予想外の行動に出ることがあるからだ。非営利団体「ボーン・フリーUSA」によると、1990年以来、米国で少なくとも300人がエキゾチックペットに襲われている。

 エキゾチックペットが脱走したり、飼い主が野生に放したりするのはそういう理由だ、とカーロー氏は話した。(参考記事:「【動画】絶滅危惧のスローロリス、ペットから森へ」)

 だが、ペットが野に放たれると、大きな問題を引き起こしかねない。自由になった動物が繁殖し、「侵略的外来種」と化す可能性があるからだ。侵略的外来種とは、外来生物のなかでも、その土地の自然で繁殖することで、本来の生態系を脅かしてしまう生物を指す。


参考動画:侵略的外来種とは
世界経済に毎年1兆ドルを超す損失を与えるとも言われる「侵略的外来種」。在来ではない生物がどのように生態系に持ち込まれるのか、地域社会にどう影響するのか、導入阻止のためにどんな対策が取れるのか見てみよう。(解説は英語です)

今やエキゾチックペットの取引は、侵略的外来種が拡大している大きな原因の1つに数えられるとする論文が、学術誌「Frontiers in Ecology and the Environment」に6月3日付けで掲載された。論文によると、エキゾチックペットの取引は数百の侵略的外来種の定着につながっているのに加え、今後さらに多くの種の定着を招くだろうという。(参考記事:「珍しい動物のペットが中国で人気上昇、心配の声も」)

「エキゾチックペットの取引がどれほど大規模になっているか、多くの人が十分に把握していないと思います」と、論文の筆頭著者で、米ラトガース大学生態・進化・自然資源学部のジュリー・ロックウッド氏は話す。「世界規模で取引される脊椎動物の量は衝撃的です。この問題を比較的長く研究してきた生物学者から見てもそうです」

 侵略的外来種は、世界中で生物多様性が失われている2番目に大きな要因とされている。これによって米国が被っている損失は年間1200億ドルと推定され、米国で絶滅危惧と指定されている種のうち40%以上は、侵略的外来種が原因だ。侵略的外来種は、生息地を様変わりさせ、食物連鎖を壊し、餌となる生物たちを食べ尽くし、捕食者の数を減らす。(参考記事:「アジアの女郎グモ、米国へ侵入・定着」)

ペットが野生に放たれ脅威に
 エキゾチックペット取引は数十億ドル規模の産業であり、爬虫類、両生類、魚類、鳥類、哺乳類など膨大な数が売買されている。ウェブサイトやソーシャルメディアなど、従来とは異なる市場が台頭してきたことなどもあり、過去20〜30年で特に大きく成長した。だがエキゾチックペットの取引に関するこれまでの研究は病気の広がりやペット捕獲による影響に焦点を当てたものがほとんどで、侵略的外来種としての影響にはあまり触れられてこなかったと、論文の著者らは述べている。

「この問題に対処するには、エキゾチックペット市場を後押ししている社会的・経済的な力をもっと理解すること」だと著者らは述べており、人々がエキゾチックペットを野生に放す理由の解明も必要だと指摘している。

 エキゾチックペットが野生化する理由がきちんと解明されていないと、マーク・ホドル氏は言う。同氏は米カリフォルニア大学リバーサイド校侵入種研究センターの代表で、ロックウッド氏らの論文には関わっていない。(参考記事:「ペットの溺愛がもたらす人獣共通感染症にご用心」)

「ペットが飼育場所から逃げ出すこともあれば、飼い主が面倒を見きれなくなって放すこともあります」とホドル氏。宗教上の理由や、周囲の環境を「もっと面白く」するために、外来生物を故意に放す人もいるという。


蔓延を止めるには
「何であれ、ペット取引を介して持ち込まれた動物の拡大に対処する最善の方法は、啓発、早期の発見、すばやい対応です」と話すのは、米フロリダ大学野生生物生態学・保全学部で外来種を研究する生物学者、クリスティーナ・ロマゴサ氏だ。今回の論文で共著者に名を連ねている。

 フロリダ州では残念ながらテグーがすでに定着し、在来の動物たちの巣をたびたび襲っている。その1つで、絶滅の恐れがあるアナホリゴファーガメは、他の数百種の生物に巣穴を提供する、生態系のなかの重要な種だ。(参考記事:「ゾウの足跡がカエルを育てる、研究」)

 侵略的外来種のなかで、テグーはほんの新顔でしかない。悪名高いビルマニシキヘビは、2000年ごろフロリダ州に完全に定着し、州の哺乳類の多様性が低下した原因に挙げられている。同様に、猛毒を持つ観賞魚のハナミノカサゴは1980年代後半にフロリダの海に持ち込まれ、サンゴ礁にすむ海洋生物の豊かさと多様性が大きく損なわれた。(参考記事:「動物大図鑑 ミノカサゴ」)

「ハナミノカサゴがいるところは明らかに魚が減っています」と、同州で長年漁師をしてきたジャラッド・トマソン氏は、以前ナショナル ジオグラフィックに対して語っている。

【参考ギャラリー】ちょっと変わった「エキゾチック・ペット」の写真10選 (クリックでギャラリーページへ)

牧場で生まれた盲目のオジロジカ「ディリー」は、母親が子育てを放棄したため、オハイオ州の獣医師メラニー・ブテラ氏に引き取られた。最初はブテラ氏と一緒に寝ていたが、今は自室をもらって「まるでお姫様のような」暮らしを送っている。 (PHOTOGRAPH BY VINCENT MUSI, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)
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 ロマゴサ氏は啓発が特に重要だと強調する。エキゾチックペットを買う際、その生物をきちんと理解している消費者は、のちに手放す可能性が低いことを彼女は明らかにしている。同じくらい重要なのがさらなる研究だ、と同氏は言う。

「ある動物がなぜペット市場に持ち込まれるのか、なぜ脱走したり手放されたりするのか、情報が乏しいのです」とロックウッド氏は話す。「人々がエキゾチックペットを飼うことができつつ、新たな侵略的外来種が生まれないようにするには、こうした情報が必須です」

 マサチューセッツ州のテグーがなぜ、どのように外に出たのかは、まだわからない。逃げ出したテグーは今、爬虫類保護施設で暮らしており、警察が飼い主を探している。

文=ANNIE ROTH/訳=高野夏美
posted by しっぽ@にゅうす at 09:28 | 動物 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする