動物 しっぽニュース
認定NPO法人HOKKAIDOしっぽの会

2019年09月15日

知ってほしい飼い主十戒 心痛む「散歩スマホ」

NIKKEI STYLE



2016年のユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされたのが「歩きスマホ」で、今回お話しするのは、犬の散歩中に横行している「散歩スマホ」だ。愛犬家の間では「許せない」と息巻く声が少なくない。私もその一人だ。

「散歩スマホ」とは、犬を連れて散歩する際、犬に全く頓着せず、片手に持ったスマホ画面をひたすら眺め続ける、飼い主の態度を表す言葉だ。進む先の道路状況、犬を危険にさらすことなく安全確保するための対策などを、ちっとも考慮せず、空いた片方の手で、リードを面倒くさそうに荒っぽく引っ張るケースもしばしば目にする。

■自分勝手な見せかけの「散歩」

先日、目の当たりにしたのは、30歳前後とみえる男性による「暴挙」だった。緑道沿いに咲く花の匂いをかごうとしたのか、わずかに顔を横に向けた、まだ若いトイプードルを、ものすごい力でグイッと、犬の体が宙に浮くほど引っ張った。何とむごいことを。

「キュイーン」と切なく声を上げるワンちゃんを、そのまま力任せに引きずって行く。緑道のすぐその先の一般道路と交差する場所では、左右を確認することもなく、スマホ画面に釘づけのまま進む男。左から坂を下りてきた自転車に、ワンちゃんはあわやひかれそうになった。けれど、男性はスマホ画面から一瞬たりとも目を離すこともなく、ひたすらリードを引っ張り続けた。

ここまで無慈悲に見える「散歩スマホ男」にだって、それなりの事情があったのではと、努めて彼の立場になって考えてみた。「散歩スマホ」を「悪」と決めつける前に彼の事情に想像を巡らすべきだと思ったのだ。

例えば彼の状況が以下のようであれば、一概に非難すべきではないだろう。

(1)彼が目にしたスマホ画面に写っていたのは「父危篤、すぐ帰れ、病院の場所は〜」と、緊急事態を告げる文言だったかもしれない。

(2)散歩中の緑道は、意図して来た場所でなく、まるで不案内な場所に迷い込んで戸惑い、慌てスマホの地図アプリで、愛犬と共に進むべき道を必死で検索していた可能性はゼロではない。

(3)彼は瞬時に億のカネを稼ぎ出す若きトレーダーで、世界中のマーケットの動きを秒単位で把握する必要がある。それをしないことは、顧客に莫大な損失を与え、金融ビジネスに重大な影響をもたらし、それがひいては日本経済にダメージを与えかねない。そう真摯に考える「愛国の人」だった確率は何万分の一はあり得る。

(4)一見、非道な「散歩スマホ」は、犬猫への虐待防止キャンペーン映像を作成するため、制作スタッフが空撮中で、彼はその役割を全うすべく、心を鬼にして演じていたというケースだって、全く起こり得ないわけではない。

■私にとっての「散歩の効用」

ほかにもいくつか「特殊な事情」を思いついたが、「いい加減にしろ!」の声が聞こえて来そうだから、これぐらいにしておく。これら「よほどの事情」でもない限り、彼の「散歩スマホ」は非難されても仕方がない。

私のような「犬バカ」は結構いるものだ。「散歩スマホ男」を目にした途端、我が愛犬を抱きしめ、「かわいそうな同胞(引きずられるワンちゃん)」を見せないようにする人の姿は、そこここで見られる。

私の散歩スタイルは「彼以外」の多くの愛犬家とほぼ一緒だ。散歩中は、飼い始めて2年弱のトイプードル「レオ」に話しかけ、その日にあったこと、今後のことについて相談し、即興で「レオ君音頭」を歌って聞かせる。ここまで書いて、「多くの愛犬家とほぼ一緒」とは必ずしも言えない気もしてきた。

散歩というのは、大好きな犬と時間を共有し、犬と語り合うなかで、「自問自答」を繰り返し内省を深める、極めてぜいたくで貴重な時間だというのが私の考えだ。散歩コースの一つである、某キャンパスの高台から、眼下に広がる街の夕焼けをレオと一緒にめでるひとときはたまらない。

いい年になってと、笑われそうだが、「愛する喜び」を実感することによって、新たなエネルギーが湧いてくる。犬の見る先を一緒に見つめ、浮かび上がるアイデアも少なくない。

「散歩スマホ」はこれら全てを台なしにする。飼い主が得られるのは、「ウォーキングの歩数」と暇つぶしに眺める「勝手に送られてくる薄い情報」(梶原の偏見)だけというのでは、あまりにもったいない。スマホに夢中で「犬の声」に耳を貸さず、犬との会話もなく、強引に引っ張り回すのは、一種の虐待だと感じてしまう。


■心を打った「犬と私の10の約束」

レオが我が家にやって来たのは、長年の友人からの電話がきっかけだった。

友人「子犬が4匹生まれて、家が大変なことになっている。良かったら見に来ない?」

その2年前、13年間を共にした愛犬「ルル」を亡くした。私たち夫婦はひどく落ち込み、「二度と犬は飼わない」と心に決めていた。

友人から電話をもらったその日は、よほど暇だったからか、魔が差したのか、気乗りのしない妻を伴い、友人の家を訪れた。生まれて3カ月ほどの子犬たちが部屋で元気いっぱい走り回るなか、1匹だけ椅子の下にたたずみ、我々をじっと見上げるおとなしい犬がいた。

「あ、この子、赤ちゃんの頃のルルちゃんみたい」。妻の表情が一瞬、和らいだ。

友人「実はこの男の子だけ、まだ引取先がないんですよ」

その後、何度か友人の家を訪れ、結局、その子をもらい受けることにした。友人が言った。「梶さんは経験者だから必要ないと思うけど、犬を譲る先の人に読んでもらってるんです」

壁に掛けられたボードを見ると、「犬と私の10の約束」と書かれたポスター大の紙が目に入った。読み進むにつれ、胸が熱くなった。

1)私の一生は10年から15年です。私はあなたと離れることが一番辛いことです。そのことを覚えておいてほしいのです。

2)あなたが私に何かを求めたとき、私がそれらを理解するには少し時間が必要です。だから待っていてほしいのです。

3)私を信頼してほしい。それが私にとってあなたと共に生活できる、一番の幸せなのですから。

4)私を長い間叱ったり、罰として閉じ込めたりしないでください。あなたには楽しみがあって、たくさんの友達もいるはず。でも、私には大好きなあなたしかいないのです。

5)時々話しかけてほしいんです。言葉は分からなくても、あなたの声は十分、私に届いていますから。

6)あなたが私にしてくれた全てを、私は決して忘れません。

7)私をたたく前に覚えておいてほしいのです。私には鋭い歯であなたを傷つけることができるけど、私は絶対にあなたを傷つけないと決めているのです。あなたが大好きだから。

8)あなたの言うことを、私が聞かないときは理由があります。そんなときは私が何かで苦しんでいるときかもしれません。

9)私が年を取っても、仲良くしてください。

10)最後のそのときまで一緒にそばにいてください。そして、どうか私を忘れないでください。私は生涯であなたを一番愛しているのですから。

作者不詳という、この10の戒めは、個々の愛犬家がそれぞれに手直しを加えた、何種類かのバージョンが愛犬家の間で広まっているという。「説教臭い」「宗教っぽい」「余計なお世話」など、様々な指摘もあるようだが、今では我が家でレオとのより良い関係を築くうえで貴重な指針となっている。

これを読んで「散歩スマホはやめようかな」と思う人も出てきたらうれしいのだが。

※「梶原しげるの「しゃべりテク」」は毎月第2、4木曜掲載です。次回は2019年9月26日の予定です。

梶原しげる
1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーに。92年からフリー。司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。「日本語検定」審議委員。著書に「すべらない敬語」「まずは『ドジな話』をしなさい」など。
posted by しっぽ@にゅうす at 09:28 | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする