動物 しっぽニュース
認定NPO法人HOKKAIDOしっぽの会

2019年09月23日

ペットの主治医はどこまで信用できる?「誤診」を疑うことも必要

Yahoo! JAPAN



愛するペットの主治医は、どのようなことに注意して選べばいいのだろう。1つ頭に入れておくべきは、獣医の技量は、人間を診る医師以上に差があるということだ。(医療ジャーナリスト 木原洋美)

● 平凡でもいいが ヤブでは困るのだ

 昔から「遠くの親戚より近くの他人」という。いざというときには、疎遠にしている遠くの親戚より、交流がある近くの他人のほうが頼りになるという意味だが、これにならって首都圏在住のA子さん(45歳)はかつて、小児科医は「遠くの名医より近くの平凡医」と思っていた。

 なぜなら子どもがしょっちゅう病気をする。だからさっと連れていけて、すぐに診てもらえる、平凡な医師が一番と考えていたのだ。

 だがそれは間違いだった。

 あるとき、咳が長引いていた長男(当時生後5ヵ月)の様子が明らかにおかしい。受診させると、医師は「ぐったりしているのではなく、落ち着いているだけ」と言う。「呼吸が苦しそうなので、検査してください」と食い下がったが、「そんなのムダですよ」と鼻で笑われた。相手にされないまま帰され、そのわずか1時間後、長男は40度を超える熱を出し、痙攣(けいれん)を起こして救急搬送。肺炎だった。

 A子さんは、近くにあること最優先で小児科を選んでいたことを悔いた。近くて、平凡なのはいいが、ヤブでは困るのだ。

 赤ちゃんは、自分がどれほど具合が悪いか説明できないし、急変しやすい。だからこそ、小児科医は注意深く診察し、異常を見逃さないでほしい。

 A子さんはその後、隣駅にある、名医と評判の小児科を受診し、医師としてのレベルの違いに驚いた。予約しても3時間待ちの混み具合だったが、診察は丁寧で的確、内科系だけでなく目、耳、鼻も診てくれたし、重病は見逃さず、大学病院につないでくれた。

 (小児科医は、近くのヤブより、ちょっと遠くても名医じゃないと!)とA子さんは強く思った。


そしてさらに13年後、今度は「獣医も、近くのヤブより遠くの名医」と確信させられる出来事が起きた。

 A子さんの家には、10歳になるミックス犬(オス)がいる。乳歯から永久歯に生え変わった際、エナメル質形成不全という先天性の歯の疾患が見つかり、車で20分ほどのところにある動物高度医療センターで治療を受けた。

 歯をエナメル質の代わりになる薬でコーティングするだけ、という実にシンプルな治療だったが、全身麻酔で行うため、動物の歯医者さん、麻酔科医、消化器医の3人の専門医が担当し、半日入院で9万円かかった。

 ペットには公的保険制度がないので、費用は当然、丸まる自己負担。先天性疾患が見つかったことで、動物保険に加入することもできなくなった。

 近所には、徒歩15分圏内に5軒動物病院があるが、A子さんは、その中で一番近くて、散歩コースの途中にあって、診療費も良心的な病院を選んだ。

 猫を3匹飼っている近所の友人からは「あの先生は、定期検診や軽い病気のときはいいと思うけど、重病のときは頼りにならないよ」と言われたが、愛犬は10歳になるまでずっと元気だったので、特に問題はなかった。

 ヤギのような白ひげを生やした穏やかな風貌、野良猫の保護活動も行っている獣医師に愛犬はよくなついており、散歩で近くを通ると、「先生の所に行こうよ」とリードを引っ張った。

● CT検査料16万円 結石手術50万円

 10歳を迎えると、愛犬は急に老けだした。白髪が目立つようになり、階段を上るのもいやがる。公園で出合う犬たちには、8歳で亡くなった子たちも少なくなかったので、10歳はもう立派なおじいちゃん犬なのかもしれない。

 (でも、20歳まで生きている子もたくさんいるから、少なくとも15歳までは生きてほしいな)

 食餌にも気を配り、毎日せっせと散歩した。

 そんなある日、散歩の途中で、おしっこに真っ赤な血が混ざっているのを発見した。いつもの動物病院の近くだったので、急いで連れて行くと、「膀胱(ぼうこう)炎だろう」ということで薬を処方され、血尿はすぐにおさまった。

だが、1ヵ月もしないうちにまたもや血尿。血液検査とエコー検査をした医師は、「膀胱に腫瘍が見えるから、膀胱がんかもしれない。1週間後に、今度は膀胱におしっこをためたまま連れてきて。もし膀胱がんだったら、手術は難しいね。あきらめてもらうしかない」と言った。

 エコー画像を見ると、確かに腫瘍らしい影があり、不安になったA子さんは1週間、泣いて過ごした。

 しかし1週間後に再受診すると、膀胱がんの疑いは消え、血尿も治まり、医師は「なんなんだろうね」と首を傾げた。

 そして1ヵ月がたち、愛犬はまたも血尿を出した。エコー画像をじっくり見た医師は、「これは結石かもしれない。膀胱に小さなツブツブがあるような気がする。でもうちでは、これ以上の検査はできないから、動物高度医療センターを紹介するね。CTを撮ってもらおう」と宣言した。

 エナメル質形成不全を治療した経験から「動物高度医療センターは高額」という認識があるA子さんは慌てて聞いた。

 「あの、CT撮影っていくらぐらいになるんですか」

 「まあ、大したことないですよ、50万円はしないよ。20万円ぐらいかな」

 「えぇっ!そんなに!」

● エコー画像の質も 診断もぜんぜん違った

 帰宅し、動物高度医療センターに費用を問い合わせると、CT検査は約16万円、結石の手術は50万円ぐらいだと言う。

 驚いたA子さんは、セカンドオピニオンを求めることにし、近場で、一番評判のいい動物病院を受診してみた。SNSによると「先生は動物の味方で、人間に対してはちょっと怖いけど、腕は確か」「この先生に診てもらったら、もうほかは行く気がしない」とのことだった。待合室には、車で1時間かけて通っている人もいた。

 これまでの経過を一通り説明すると、医師は、愛犬がそこでたまたま漏らしたオシッコをすかさず採尿して検査。エコー検査もしてくれた。これまでのヤギひげ先生とはぜんぜん違う、鮮明で、くっきりとした画像だった。そもそも撮影の角度も、場所も違う。

 (あれれ、動物のエコー画像でも、こんなに鮮明に写るのね)

 感心していると、医師は言った。

「結石は見当たりませんね。がんも、オシッコの中に悪い細胞は出ていないから心配ありませんよ。血尿は膀胱炎ですね。高脂血症で、膀胱炎を起こしやすい状態にあるようです。肥満気味だから、糖尿病も危ないです。この子の犬種は遺伝的に高脂血症や糖尿病になりやすいから気を付けて。糖尿病になると、いろいろと怖い合併症があるからね。真剣にダイエットしてください」

 結石も、膀胱がんも「なし」。CT検査は不必要だったのである。A子さんはさっそく、動物高度医療センターでの検査をキャンセルし、もう、ヤギひげ先生のところには行かないことに決めた。エコー画像の質があまりにも違いすぎたし、糖尿病予防に効く漢方薬を処方され、言われた通りダイエットしたところ、以後、血尿は出なくなったからだ。

 「ヤギひげ先生はいい先生だったけど、難しい病気は苦手だったみたい。獣医さんは、使い分けが必要ね」

 A子さんはご近所の犬友に体験談を語って回っている。獣医の診療手腕は個人差が大きい。普段の軽い病気なら、親切で良心的な近場の病院でもいいが、重病が疑われる場合には、ちょっと遠くても名医を探して行くべきだ。

 ちなみに、この話には後日談がある。愛犬は、セカンドオピニオンを受けた時点ですでに糖尿病だったようで、ほどなくして、全身に低温やけどのようなひどい皮膚炎が突然出現し、多飲多尿が始まった。9キロだった体重は1週間に2キロずつ減り、2週間で半分近くになった。

 「このままだと、あと2週間で消滅かも」

 となったところでインスリン治療開始。体重も体調もなんとか持ち直したが、今度は糖尿病の合併症で白内障を起こし、失明してしまった。

 「もっと早く、病院を変えていたら、糖尿病を発症しないで済んで、失明もしなかったかも。本当にかわいそうなことをしてしまった」

 A子さんは自分を責め続けている。

木原洋美
posted by しっぽ@にゅうす at 08:31 | 動物 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする