動物 しっぽニュース
認定NPO法人HOKKAIDOしっぽの会

2019年12月08日

心を開かない「元野良犬」を迎えた家族の大決断

東洋経済オンライン



ペットを飼っている人たちの間で「涙腺が崩壊した」と話題の感涙エッセイ漫画があります。漫画家のおおがきなこさんが上梓した『いとしのオカメ』『いとしのギー』は、WEBに『イヌ日記』として、元保護犬であるオカメ(ミニチュアダックスフントのメス)とギー(元野良の雑種犬・メス)との日々を描いたものを書籍化した作品です。前回の『保護犬を迎え入れた漫画家が語る「ペットロス」』の続きから、2匹目としておおがさんちにやってきた元野良犬のギーとの試行錯誤の日々を伺いました。
熊本の山からやってきた元野良犬のギー
ギーは熊本出身で、保護されて東京に運ばれてきた。雑種犬で、元野良らしいモリモリな筋肉を持つ見た目とは裏腹に、子犬時代に人間と関わってこなかったからか、とても臆病な性格をしている。


不安そうにしているギーを見て、正直私自身も不安になった
わが家にやってきたのは1年半前だ。まずはトライアル(保護団体から犬を譲り受けるときに犬と家族がマッチングするかみる期間)で2週間ギーがわが家にいたときは、正直不安になった。同じ元保護犬でも、先住犬としてわが家にいたミニチュアダックスフントのオカメとは全然勝手が違ったからだ。


ギーをわが家に迎え入れることを決め、飼い始めて1カ月後になっても、ギーは自分に名前が付けられていることもわかっていないようだった。

おやつをあげても、これは食べていいおやつなんだということもわかってなかったし、それどころか、決まった時間にご飯が出てくることにもピンときていない様子だった。呼んで振り向くようになったのも、おやつを欲しがるようになったのも、ここ最近である。

心を開くのは年単位かもしれないと言われた
保護犬猫団体のボランティアさんからは「心を開くのは年単位かもしれません」と、最初にちゃんと聞かせてもらった。ギーがいたシェルターは東京・渋谷の一軒家で、そこでもやっぱり、ギーはいちばん端っこにいたのだ。「でもかわいいんです。そういう子って絶対かわいいんです」と、シェルターの若い男性が続けた。優しくて一生懸命な声だと思った。


家に来てから半年は、この机の下からギーが出てくることはなかった(筆者撮影)
シェルター(保護団体・保護主)によるけれど、ギーのいた所も先住犬のオカメがいた所も、飼い主との相性を大切にしてくれる。

オカメのときは「初心者でも難しくない性格の犬」にふわりと導いてくれたし、ギーのときは「い、いいんですか?! 懐くの時間かかりますよ?!」と心配してくれた。いいんですとカッコつけて答えたら、すごくうれしそうだった。

これもシェルターによるけれど、オカメのときもギーのときもトライアル期間があった。2週間、一緒に暮らしてみるのである。このトライアル期間、オカメは順調だったが、ギーはといえば、ちょっと違う。これは今だから言える話だ。

トライアル期間中の2週間、夫婦間の空気が重かったのだ。われわれにビビって、部屋の隅から身を起こさないギー。外に出れば風にビビり、車にビビり、杖をついたお年寄りにビビり、13キロの体をよじっていつでも脱走しようとするこの野良ちゃんを、私も夫も家族にできるか不安だったのである。

ビビっている犬の姿を見て、飼い主側もビビり始めてしまったのだ。「一生慣れなかったらどうしよう……」という言葉が喉から飛び出しかけた。それを言っちゃおしまいな気がした。

シェルターの男性は、「もし無理だと思ったら相談してください」と優しく言ってくれたけど、「む、む、む、無理じゃないはず!」と私は力んだ。

SNSで見つけた飼い主の姿に勇気づけられた
それからどうしたのかといえば、Instagramを検索したのだ。『#元野良犬』やら『#人慣れ訓練中』やらのハッシュタグを手繰りまくった。病気になったときに、経験者を探すのと同じだ。克服例を見たかった。そしたら、たくさんあった。

今はもうすっかり人慣れした元野良ちゃんの投稿も、今現在まさに試行錯誤中の投稿も。ギーのトライアル期間中、SNSを検索しては、見つけた投稿に背中を押してもらっていた。


今でもSNSでギーによく似た雑種犬を見つけるととてもうれしい(筆者撮影)
しかも、何日ハッシュタグを探しても「結局最後まで、慣れてくれませんでした」という投稿だけは見つけられなかったんですよ。まだ試行錯誤中の人は「いつまでも待つよ」と、すっかり懐かれた人は「待っててよかった」とSNS上に書いてある。

あんなに勇気づけられたことはなかった。だから私も、待つことに決めた。ギーを観察しながら待つぞと。ギーの観察日記として誕生したのがWEB漫画である『イヌ日記』だった。

ギーがわが家にきて、1年半経った。心を開かなかったギーも、今では鼻先を私の足に押し付けて、散歩をねだる。最近では、公園で会う人のそばへ行って、無表情のまま立ち止まったりする。撫でてくれ、と合図するように。カチコチに緊張していた最初の頃の顔は、もう見せない。

もちろん人のことが大好きな家庭犬というわけにはまだいかないが、ギーは確かに心を開き始めている。室内にいるときのギーは、いまだに部屋の隅にいることが多い。それでもごくたまにリビングにいる私に近づいてくることがある。ギーと家族になれたんだと感じることが増えてきている。


一方でいまだに克服できていない最も大きな物もある。車だ。乗せるのに抵抗もするし、小まめに休憩をとっても酔ってしまう。同じ元野良犬でも、車なんて全然平気な犬もたくさんいるので、これはギーの体質だろう。


『いとしのギー』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)
と同時に、心の問題もあるとは思っている。ギーにとって、山から保健所へと運ばれたのが、最初の車体験だっただろうから。同じ体験をしても、心に恐怖感が残る者とそうでない者がいるのは、人間だってそうである。

車を克服せねば、いざというときに病院に連れて行けない。歩ければ近所に行けばいいが、ギーもいずれは老犬になって元気に歩けなくなる。いつもいつも頭の片隅で、ギーが年老いたときどう過ごさせてやるかを考えている私がいる。ギーの車克服が今の私の課題だ。
posted by しっぽ@にゅうす at 08:11 | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする