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2019年12月29日

重要性増す「競走馬の福祉」 薬物規制強化の動きも

日本経済新聞


2019年の競馬界を振り返ると、競馬の持つ暗い側面が世界的に注目を集めた一年だった。

米国ではカリフォルニア州にあるサンタアニタパーク競馬場で、故障により命を落とす馬が相次いだと問題視された。オーストラリアでは引退した競走馬が劣悪な状況で殺処分され、食肉として海外に輸出されたとする報道があった。いずれも大手メディアが力を注いで伝え、競馬ファン以外に与えるインパクトも大きかった。

近年は競走馬が現役時も引退後もできるだけ幸せに過ごせるようにする「競走馬の福祉」に関わる議論が活発になっている。動物愛護の意識が高まるにつれ、競馬への風当たりが強くなるおそれもある。競走馬の福祉の重要性は増している。

米サンタアニタパーク競馬場では馬の事故死が問題視された(同競馬場でのブリーダーズカップクラシック)=AP
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米サンタアニタパーク競馬場では馬の事故死が問題視された(同競馬場でのブリーダーズカップクラシック)=AP

「サンタアニタで競走馬の死が相次いでいる」と米メディアが取り上げ始めたのは19年2月ごろ。この時期、レース中に故障を発症し、予後不良との診断を受けて殺処分される馬が急増した。サンタアニタで死んだ馬は18年7〜12月の半年で14頭(病死など、レースや調教での故障以外も含む)だったが、19年1〜2月は21頭を記録した。2月22〜25日には4頭が立て続けに命を落とした。当時、カリフォルニアは記録的な大雨に見舞われており、その影響があったとみられる。

安全性に対する批判の声を受け、同競馬場は3月5〜28日の開催を中止。馬場などの点検を行った。再開後、6月末までに死んだ馬は10頭にまで減った。ただ、一度熱を帯びた話題は収束せず、安楽死処分の馬が出る度に「○頭目の死」と報道されるようになった。

■利益優先の施策、馬の死につながる

11月には、北米の競馬場の持ち回りで行われるブリーダーズカップがサンタアニタで開催された。メインとなるクラシック(ダート約2000メートル)に出走したモンゴリアングルームが、レース中の故障で死んだことも大きく取り上げられた。影響はまだ続いており、26日に開幕予定だったサンタアニタの次の開催は、雨予報を受けて28日に延期となった。

ニューヨーク・タイムズなどの米メディアは、サンタアニタ競馬場を経営するストロナックグループが利益優先の施策をとったことが馬の死につながったと指摘する。例えば、出走頭数を増やそうと調教師に出走頻度を高めるように促していたという。薬で痛みをごまかして馬を出走させ、命に関わる大きな故障を引き起こしたケースがあったものと考えられる。

BCクラシックではモンゴリアングルームがレース中に故障を発症し、安楽死処分となった=AP
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BCクラシックではモンゴリアングルームがレース中に故障を発症し、安楽死処分となった=AP

一方、豪州では10月、公共放送ABCが引退した競走馬が大量に殺されていると報じた。虐待が行われているとも指摘。長期の調査による報道で、処分場に潜入した衝撃的な映像も流された。競走馬はペットフードや食肉として処理され、欧州や日本、ロシアなどへ輸出されていることを明らかにしている。

豪州で引退する馬は年間約8500頭。競馬業界は処分場で最期を迎える引退馬は1%に満たないと主張しているが、「年間4000頭が行方不明になっている」という研究者のコメントも紹介。これまで考えられていたよりも大きな規模で馬が殺されていると報じた。豪州最大のレース、メルボルンカップの開催前だったこともあり、関心を呼んだ。

■打ったときの衝撃少ないムチを導入

米国、豪州で報じられた問題は、競馬が本質的に内包する負の側面をあぶり出しており、今年になって突然生じたものではない。

実はサンタアニタで死んだ馬の数も、年間トータルでみれば異常だったわけではない。18年7月〜19年6月は49頭だったが、前年同期は44頭、その前は64頭である。一時期に集中した死が注目を集め、大手メディアなどが報じたことから、くすぶっていた火が一気に燃え上がった格好だ。いつ大きなダメージを受けてもおかしくない問題を常に抱えながら、日々のレースを行っているという競馬界のもろさが浮き彫りになったといえる。

動物愛護の意識も世界的に高まっている。今回のような問題がクローズアップされた際に、競馬界として対策を取っているという事実をすぐに提示できなければ、競馬の持続可能性にすら影響が出かねない。

競走馬の福祉に対する取り組みは近年、世界的に強化されている。日本でも、打ったときの衝撃が少ないムチを導入。馬の故障を防ぐため、消炎鎮痛剤の効き目が続いている状態でレースに出走することを禁じる施策なども取り入れた。欧州を中心につくられた厳格な国際ルールにのっとったもので、薬物の影響下にある状態で出走してはならないという考えが根底にある。

だが、米国は伝統的に薬物に対する考え方が異なり、競走当日にも薬を投与できるなど規制が甘い。運動によって起こる肺出血を防ぐために利尿剤のフロセミド(日本では禁止薬物に指定)を使うのが代表例だ。抗炎症薬のフェニルブタゾンも州によっては競走当日に使用できる。効き目が残っていても出走できる州が多い。

欧州は米国に「薬物規制を厳格化すべきだ」と訴え続けてきた。米国内でも同様の意見はあったが、なかなか規制が進まなかった。利益を上げるのに、薬物が果たす役割を無視できなかったためだ。

■引退後の競走馬の福祉拡充へ19億円

今回のサンタアニタの件を受け、米国でも薬物規制強化の議論が進んでいる。現地報道によるとストロナックグループは内規で、フェニルブタゾンを投与した馬は効き目がなくなるとされる7日間をレース出走を控えるべき期間とした。これは国際的なルールと同水準の規制だ。

フロセミドの規制も厳しくした。同グループの競馬場に加え、ケンタッキーダービーの舞台となるチャーチルダウンズなど全米各地の主要競馬場は、重賞やリステッド競走といった格の高いレースに出走するすべての馬について、レース前24時間以内のフロセミド投与を21年から禁止する。米国でこうした流れが出てきたのは一歩前進といえる。

豪州ではABCによる報道直後の10月末、ビクトリア州の競馬を運営するレーシングビクトリアが、引退後の競走馬の福祉を拡充するため、2500万豪ドル(約19億円)を支出すると発表した。乗用馬への再調教や、引き取り手の拡大、引退馬の行方を追跡するシステムの充実などに資金を分配するという。

馬をならして乗れるようにし、レースで速さを比べる競馬は、5000年以上前から人類と馬がともに過ごしてきた歴史を伝える重要な文化の一つである。一方で命ある動物に苦痛を強いているのも確かだ。競走馬の福祉を向上させる取り組みは、今後も競馬という文化を存続させるために不可欠となる。

(関根慶太郎)


posted by しっぽ@にゅうす at 01:48 | 動物 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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