動物 しっぽニュース
認定NPO法人HOKKAIDOしっぽの会

2020年02月25日

小石のようなしこりが…実は多い、猫や犬の「乳がん」

Yahoo! JAPAN



11人の女性のうち1人が乳がんになると言われているほど、女性にとって乳がんは身近な病気だ。しかし早期発見により完治率もとても高いものでもある。

【写真】「猫の乳がん」で手術した猫も…

 実は犬や猫にとっても、乳腺腫瘍、つまり乳がんは決して遠い病の話ではないという。特に、避妊手術をしていない場合は乳腺腫瘍のリスクが高いと言う。獣医師であり作家である片川優子さんによる連載「ペットと生きるために大切なこと」第8回の今回は、犬や猫の乳がんについて、現状と早期発見に大切なこと、そして万が一そうだったときの対処法を伝えてもらう。

小石のようなしこりが…実は多い、猫や犬の「乳がん」
(写真のプードルは本文のプードルとは別の犬です)Photo by iStock
プードルのお腹の腫瘍
 「お腹のできものが最近大きくなって……」
そう言ってプードルを連れて診察室に入ってきたオーナーは、困った顔をしていた。
数年前にお腹にできものができ、他院にて乳腺腫瘍だろうと仮診断がついたものの、そのまま様子を見ることにしたそうだ。

 しかし腫瘍は徐々に大きくなり、ついに先端部に穴が空いて、しみ出てくる体液で常に腫瘍の周りがじめじめとしめった状態になってしまったのだという。愛犬も気にして舐めるため、さらに悪化して穴が広がってしまったとのこと。
家の中で放し飼いをしているため、家のラグやソファなどに体液がつく上、舐めて悪化するのを防止するため患部に何かを巻こうにも、毛が邪魔をしてうまく巻けずに困っているという。

 全身を精査した結果、このプードルには残念ながら肺転移が見つかった。肺転移をしていると、たとえ手術でお腹の腫瘍を切り取ったとしても、もう長くない。

 オーナーとの話し合いの末、手術や抗がん剤などの積極的な治療はせず、対症療法を行うことになった。自分で舐めないよう患部にはガーゼを当て、服を着せることとし、こまめにガーゼを交換して患部を清潔に保ってもらうようお伝えした。
数ヵ月後、このプードルは亡くなった。まだ腫瘍が小さいうちは、手術を嫌がるオーナーも多い。しかし、もっと早く、初めて乳腺腫瘍に気付いた時に手術をしていれば……と思わずにはいられない一例だった。


猫にとっては特に深刻
 乳腺腫瘍――乳がんと聞くとどんなことを思い浮かべるだろうか。

 最近乳がんとの闘病生活を経て社会復帰している女性をメディアなどで見る機会も多く、「治る病気」という認識に徐々に変わっていっているかもしれない。

 犬や猫でも、若齢で避妊手術を行うと、乳腺腫瘍の発生率はかなり低くなることが知られている。

 避妊手術を受けていない犬の乳腺腫瘍の発生リスクは、初回発情前に避妊手術を受けた犬の約200倍、2回目までに手術を受けた犬の約12.5倍である(文献1)。
猫では、1歳未満で避妊手術を行なった場合、乳腺腫瘍の発生率は86%低下する(文献2)。

 また、犬の場合は、早期に発見して適切な治療を行えば、その後天寿を全うできることもある。しかし、腫瘍に気づくのが遅れた場合や、無治療のまま腫瘍が大きくなってしまった場合は、命を落とすことも十分考えられる。

 一方で、猫の乳腺腫瘍は、どんなに小さくても見つかったらすぐに手術をしなければならないほど深刻で、そして命に直結するとても怖い病気だ。
今回はそんな犬と猫の乳腺腫瘍について取り上げたいと思う。

小石のようなしこりが…実は多い、猫や犬の「乳がん」
Photo by iStock
早期発見するためには?
 そもそも、犬や猫の乳頭が何対あるかすぐに答えられる人はどのくらいいるだろうか。避妊済みの犬や、妊娠中でない猫の乳腺組織は普段はしぼんでいるので、普段から乳頭を特別に意識していないとこの問いに答えるのは難しいだろう。

 乳頭は、犬は5対、猫は4対である。たまに片方だけ不規則に並んでいて数が少なかったりする場合もあるが、おおむねこの通りである。未避妊の犬はわかりやすいのだが、猫はお腹側もびっしり毛で覆われているので非常にわかりにくい。毛をかき分けてお腹をよくよく触ってみると、数が確認できるだろう。

 犬の場合、乳腺腫瘍は、この乳頭とは別の、コリコリした硬いできものであることが多い。まだできものが数ミリと小さいうちは、上からなでたくらいでは分からないことも多く、乳頭の周りの皮膚を軽く指でつまんでチェックすると発見できることもある。

 これは私の主観になるが、早期の乳腺腫瘍は皮膚に小石のような硬いものが埋まっていて、ゴリゴリしたものが触知できる、といった感じだ。

チェックする習慣を!
 犬の場合はお尻側から1番目と2番目の乳頭(正式には頭側から数えるので、第4・5乳頭)に乳腺腫瘍ができやすいと言われている。そのため、未避妊の場合は特に、お散歩後の足を洗う際などに、お尻側の乳頭周辺の皮膚をつまむようにチェックする習慣をつけておくと良いだろう。

 また、犬は定期的に動物病院で診察を受ける機会があり、また犬種によってはトリミングでじっくり体を触ってもらうので、その際に発見されることも多い。

 猫の場合、早期発見は犬よりも難しい。

 先ほども述べたが、猫はお腹側までびっしり毛で覆われている上、妊娠中でなければ乳頭はほとんど目立たない。
動物病院にかかる機会も犬より少なく、病院に行ったとしても、獣医師の前で仰向けになりお腹をじっくり触らせてくれる猫などほぼいないだろう。

 よって、猫の乳腺腫瘍を早期発見するためには、オーナーの普段のチェックが欠かせない。月に1回でも、1日に乳頭1個でもいいので、毛をかき分けてお腹にしこりがないか確認してみてほしい。詳しいやり方については、下記のサイトにわかりやすくまとめられているので、参考にしてみてはいかがだろうか。
https://catribbon.jp/check/

お腹にしこりを見つけたら?
 もちろんお腹にできるできものがすべて乳腺腫瘍とは限らず、良性の過形成や、他の腫瘍であるという可能性もあるが、見て触るだけではそれが何なのかがわからないため、何かしこりのようなものを見つけたら病院を受診することをお勧めする。

 特に猫の場合は、「まだしこりが小さいから」といって様子をみるのは絶対にやめてほしい。しこりの大きさが2cm以下で、適切な治療を行なった場合、その後の生存期間が倍以上伸びたという報告もある(文献3)。
小さくても残念ながらすぐに亡くなってしまう子もいるが、大きくなるまで待つことは、愛猫と一緒に過ごせる時間を確実に縮めてしまうことになる。見つけたら必ず、すぐに動物病院で診てもらってほしい。

 そのしこりが何かを調べるためには、針でしこりを刺し、しこりの中の組織をとって調べる方法や、そのできもの自体を手術で切り取って組織全体を調べる方法などがある。
乳腺腫瘍は多発することも多く、ひとつのしこりに気がついて病院に行き、よくよく調べてもらったら他にもしこりがあった、ということも少なくない。必要であれば毛刈りもしてもらい、しっかり調べてもらうことが大事である。


治療法は?
 もししこりが乳腺腫瘍だった場合、基本的には外科手術が第一選択となる。
犬の場合は、腫瘍の周辺のみ皮膚ごと取り除く方法でも効果があるとされている。

 しかし猫の場合は、しこりを見つけて動物病院に行った時点で、すでに4割近くが転移しているという報告がある(文献4)。よって猫の場合は、丸くくり抜くような手術ではなく、乳腺片側切除という方法で手術する方が再発しにくいと言われている(文献3)。
文字通り、右か左、どちらかの乳腺を1列丸ごと一気に取ってしまうという手術だ。可能であれば、転移している可能性の高い周辺のリンパ節もその際にとってしまうことが好ましい。

 当然この方法だと、手術跡はかなり大きくなる。そして場合によっては、この手術を、期間をあけて左右両方行う必要がある。
大手術だ。正直手術直後の傷は痛々しい。しかし、思い切って全ての乳腺を取り切ることで、猫の寿命は伸びる。

 猫の皮膚はよく伸びるため、しばらくすると今まで通り、飛んだり跳ねたり、走り回ることができる。お腹の毛が生え揃えば、傷跡もじきに目立たなくなるだろう。

 実は我が家で飼っている猫も、過去に両側の乳腺を全摘出する手術を行なっている。
事情があり、片方ずつ手術をする余裕がなく、一度で全摘出を行なったため、傷が完全に治るのに数ヵ月かかってしまった。しかし、手術から1年以上が経った今では、家中の誰よりも元気に部屋を飛んだり跳ねたりして身軽に動き回っている。お腹の毛も生えそろい、傷跡もほとんど目立たなくなった。

 最近では術後服と呼ばれる専用の服もあるので、傷がかわいそうで見ていられない、という方にはぜひおすすめだ。

 犬や猫は、人間の寿命に換算すると1年で4歳ほど歳を取ると考えられている。
偶然しこりが発見され、「手術です」と言われて、動揺しない飼い主はいないだろう。しかし、例えばそのまま放置して約2年が経ったとすると、愛犬や愛猫の体は10歳ほど歳を取ってしまったことになる。

 犬や猫も、人間と同様、歳をとれば取るほど、手術時の麻酔リスクは上がり、術後の回復も遅くなる。また、乳腺腫瘍も大きくなればなるほど、手術時間も延長し、術後の傷も大きくなる。
手術を提案された時、「かわいそう」という気持ちだけで拒否をせず、まずは獣医師とよく話し合ってみて欲しい。


乳腺腫瘍は飼い主が見つける病気
 未避妊のペット、なかでも猫にとって、乳癌は命に関わるとても恐ろしい病気である。
愛猫が長生きできるかどうかは、いかに早期発見できるかが大事になる。そしてこの病気は、飼い主が見つける病気といっても過言ではない。

 普段から愛犬愛猫の変化に気づいてあげられるよう、少し気をつけながらスキンシップをすることが早期発見につながる。繰り返しになるが、1歳までに避妊手術をしていない場合は要注意だ。
そしてできものが見つかった場合はすぐに病院に行き、獣医師としっかり相談をしながら今後の治療方法ついて決めると良いだろう。

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文献1 Tumors in domestic animals, 4th ed., p.575-606, Blackwell, 2002.

文献2 Association between ovarihysterectomy and feline mammary carcinoma.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16095174

文献3 Prognostic factors for feline mammary tumors.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/6746390

文献4 Association of surgical approach with complication rate, progression-free survival time, and disease-specific survival time in cats with mammary adenocarcinoma: 107 cases (1991-2014). https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29772965

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片川 優子(作家・獣医師)
posted by しっぽ@にゅうす at 08:43 | ペット | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする