「いぬのきもちWEB MAGAZINE」が送る連載、家庭犬しつけインストラクター西川文二氏の「犬ってホントは」です。
今回は、子犬を迎える本当にベストな日はいつか、というお話。
母犬となるべく長くいっしょにいたほうがいい一方で、長すぎるとデメリットもあるそう。ちょうどいいタイミングを西川先生が解説します(編集部)
8週齢規制の話を、当コラムのvol.11でしました。
離乳が終わる8週齢までは母犬のもとにいるべき。それが噛みつきの抑制および犬同士のコミュニケーションの基本、そして不安傾向が強くない犬に育てるために必要だと。
とはいえ、母犬のもとに長くいればいいのか、というと、これまたそうではありません。
帯に短しタスキに長し?
なんか例えが適切ではない感じですけど、ま、子犬を譲り受けるのに理想的な時期はある、ということです。
では、子犬を迎え入れるのはいつが理想的なのか。
まずは脳の発達のお話を
幼いほど抵抗力が弱く脳がダメージを受けやすい。そのため、幼い個体ほど脳細胞の数は多い。万が一に備えて、余裕を持って生まれてくるということです。
余裕がある、余分な部分を持っている、見方を変えるとそれは効率が悪いことを意味します。
それぞれの個体は将来どういった環境で生きていくかわかりません。
そこで、脳は環境から受ける刺激を頼りに必要な脳細胞を残してネットワークを広げる。一方で、不必要な細胞は減らす。
木彫りの彫刻に例えるのであれば、いわば完成像に向けての荒削り、それを人間の脳の場合は、7歳を超えるころまでに済ませてしまうということなのです。
子犬が母犬と一緒にいる時期の大切さは
↑猫と仲良しな犬は、犬慣れしている先住猫がいたケースがほとんど
社会化期とは、脳が荒削りを行っている時期
人間の6〜8歳に当たるのは、犬の場合は4カ月齢。
すなわち先の木彫りでいうところの荒削りを、犬の脳は4カ月齢ごろまで行っているということです。
犬の社会化期とは、子犬がこの脳が荒削りを行っている時期といえるのです。
社会化期は脳が荒削りを終えていないので、人間社会のさまざまな刺激に慣らしやすい。
荒削りを終えたあとは大幅な変更がしにくくなるので、社会化期を終えるとさまざまな刺激に慣らしにくくなる。
ちなみに、異種、同種に対する慣れの、荒削りを終えてしまう時期は、4カ月齢よりも少し早く3カ月齢ごろまで、といわれています。
猫と仲のいい犬がいますが、あれは生後3カ月齢ごろまでに犬慣れしている先住猫がいたケースがほとんどなのです。
母犬とそれまでいた犬を、8週齢で譲り受けるのが理想
8週齢以前に母犬のもとから引き離すことはよくないが、それを超えて3カ月齢まで母犬のもとにいたら、今度はほかの犬、ブリーダー以外の人間に対する慣れ、さらに4カ月齢までいたら新しい飼い主のもとにおける環境刺激に対する慣れも悪くなっていく。
事実、私の犬を見る限りはその通り。
初代パートナーのPoohは4週齢で保護され、他犬とのふれあいがないまま2カ月齢で譲り受けた犬。現パートナーの1頭、ダップは2カ月齢まで母犬といて、2カ月齢で迎え入れました。そして現パートナーのもう1頭、鉄三郎は3カ月齢まで愛護センターで他犬と過ごしていた犬。
それぞれに対して社会化を十分に行いましたが、Poohは、他犬とのコミュニケーションが苦手。ダップは苦手な対象が少なく、鉄三郎は人慣れおよび都会の刺激に対する慣れが悪い。
もっとも、日本で「母犬とそれまでいた犬を、8週齢で譲り受ける」というダップのような理想的な入手方法は難しくもあります。
だからこそ、子犬を譲り受けたらなるべく早い段階で、しつけ教室などに参加して人間社会のさまざまな刺激に慣らす、社会化を行っていく。それが大切ということなのです。
文/西川文二
写真/Can ! Do ! Pet Dog School提供
子犬が母犬と一緒にいる時期の大切さは
子犬が母犬と一緒にいる時期の大切さは
西川文二氏 プロフィール
公益社団法人日本動物病院協会(JAHA)認定家庭犬しつけインストラクター。東京・世田谷区のしつけスクール「Can ! Do ! Pet Dog School」代表。科学的理論に基づく愛犬のしつけ方を提案。犬の生態行動や心理的なアプローチについても造詣が深い。著書に『イヌのホンネ』(小学館新書)、『いぬのプーにおそわったこと〜パートナードッグと運命の糸で結ばれた10年間 』(サイゾー)、最新の監修書に『はじめよう!柴犬ぐらし』(西東社)など。愛犬はダップくん(14才)、鉄三郎くん(10才)ともにオス/ミックス。
いぬのきもちWeb編集室